日本の教育、「強み」と「弱み」は!?

教育政策をめぐっては、不断の改善が求められることは言うまでもありません。しかし国内の評判だけで判断していると、つい否定的な側面ばかりに目が向きがちになり、優れた部分を見落としがちになります。
客観的な証拠(エビデンス)に基づいて、今後のあるべき方向性を模索する必要があります。そうしたなか、経済協力開発機構(OECD)が報告書「OECD教育政策レビュー」を発表しました。日本の教育は、どこに向かっていけばよいのでしょうか。

教育優先や全人的教育が維持できるか

OECD教育政策レビューは、第3期教育振興基本計画(2018~22年度)を策定するため、国際的に見た日本の教育の「強み」と「弱み」を明らかにしてもらおうと、OECDに要請していたものです。同計画は6月15日に閣議決定されていますが、OECDが2017年の段階でまとめた中間報告(全体は非公表)を参考にしています。今回、その最終報告がまとまったわけです。

報告によると、15歳を対象とした「生徒の学習到達度調査」(PISA)の結果などに示されたように、日本の教育制度は高い成果を生み出しています。しかし将来を考えると、たとえば2018年に小学校に入学した子どもが高校を卒業する30年には、今は存在しないような仕事や発明されていない技術があったり、予期されない問題に直面したりするなど、「予測困難な壁」が存在していることでしょう。そうした未来に向かって子どもたちを準備させるべきで、決して過去に向かってではない……。OECD教育・スキル局のアンドレアス・シュライヒャー局長は、そう訴えています。

そんな中で、未来に向けた日本の強みは、(1)教育が優先されていること(2)21世紀に向けたスキルの必要性を認識していること(3)全人的な教育に向けた協力(4)生涯学習の存在……にあります。一方で弱みとして、(1)資源配分による不平等の拡大(2)新学習指導要領を実現する困難さ(3)全人的教育を維持すること(4)生涯学習を労働市場に対応させること……に懸念があるといいます。

難しい新指導要領、ぜひ実現を

OECDは、新指導要領が「資質・能力の三つの柱」(知識・技能、思考力・判断力・表現力等、学びに向かう力・人間性等)で子どもの育成を目指していることを高く評価しながらも、「言うはやすく行うは難し」(シュライヒャー局長)だと指摘しています。全人的教育は日本の強みでもありますが、それによって教員の多忙化を招いている側面もあります。先生の質を高める研修を充実させたり、家庭・地域との連携をいっそう深めたりして、そうした矛盾を解消し、新指導要領の理念を実際の教室で実現できるような方向で、教育政策を充実させるという困難な課題にチャレンジしなければなりません。

多忙化を解消するためには「教員を授業だけに専念させればよい」という主張もあります。しかしシュライヒャー局長は、米国を例に挙げながら、それでは日本の成功要因である全人的教育が損なわれてしまうと警告しています。
OECDから高く評価されてきた日本の教育を、未来に向けてパワーアップさせることに注力することが必要です。決して角を矯めて牛を殺すことのないようにしてほしいものです。

(筆者:渡辺敦司)

※OECD日本の教育政策に関する報告書 日本記者クラブでの発表会見(YouTube)
https://www.jnpc.or.jp/archive/conferences/35146/report

※OECD/Japanセミナー
http://www.mext.go.jp/a_menu/kokusai/oecd/04090301.htm

プロフィール


渡辺敦司

著書:学習指導要領「次期改訂」をどうする —検証 教育課程改革—


1964年北海道生まれ。横浜国立大学教育学部卒。1990年、教育専門紙「日本教育新聞」記者となり、文部省、進路指導問題などを担当。1998年よりフリー。初等中等教育を中心に、教育行財政・教育実践の両面から幅広く取材・執筆を続けている。

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