大学教育費の負担軽減、どう考える?

高校卒業者の2人に1人が4年制大学に進学する時代ですが、保護者世代に比べて授業料はほぼ倍増しており、教育費の確保は頭の痛い課題です。
日本はもともと高等教育費の家計負担が重い国で、昨今では家庭の経済格差による進学格差も懸念されており、政府も「真に必要な」学生への授業料無償化などを検討しています。大学教育費の経済的負担をどう考えたらよいのでしょうか。

財務省が公財政支出増を牽制

財務相の諮問機関である財政制度等審議会は、春と秋の年2回、政府の概算要求や予算編成に反映させるために建議を行っています。来年度予算に向けた文教・科学技術の焦点は、どうやら高等教育になりそうです。その論点の一つが、「教育の質の確保と経済的負担の軽減」です。
経済協力開発機構(OECD)によれば、日本は「高等教育に対する支出は、その50%以上が家計から捻出され、各家庭に極めて重い経済的負担を強いている」国であり、「高等教育の授業料がデータのある加盟国の中で最も高い国の一つ」(「図表でみる教育」2017年版のカントリーノート)とされています。

しかし、財務省が財政審の部会に提出した資料では、確かに日本の公財政教育支出の対GDP(国内総生産)比は3.2%とOECD平均(4.4%)に比べ7割にとどまっているものの、人口に占める在学者数の割合も7割(日本16.3%、OECD平均23.5%)であり、在学者一人当たりのGDP比にすればOECD諸国と遜色のない水準にあると主張。高等教育でも、進学率や卒業率(学位取得率)はOECDでもトップクラスにあるのに、むしろ求められる学習成果を十分に修めないまま卒業させるなど「質」の確保を問題とすべきであり、現在検討されているような負担軽減策では、大幅な定員割れをしている大学等への支援になってしまう……と牽制(けんせい)しています。

「出世払い方式」で格差が拡大する!?

高等教育の負担軽減策には、授業料の無償化だけでなく、奨学金制度の充実など、さまざまな方策があります。自民党や大学関係者の間で検討されているのが、在学中の授業料を無償とし、卒業後の所得に応じて源泉徴収により拠出金を納付させる「出世払い方式」です。オーストラリアのHECS(ヘックス)(高等教育拠出金制度)にならったもので、日本型HECSとも呼ばれています。
これに対しても財務省は、豪州では▽もともと国公立大学がほとんどで、それまで授業料を徴収していなかった状態から徴収する政策へと転換するなかで取られた制度だった▽未回収率が2割程度で、大きな財政負担となっている▽物価スライドのため、実質的な利子負担がある……と指摘。日本でHECSを導入すれば、高所得世帯に便益を与えることになり、現行の所得連動返還型奨学金よりも、かえって格差を拡大させてしまうと反論しています。
大学の授業料などが高騰するのは、致し方ない面もあります。グローバル人材をはじめ、高度な人材を社会に送り出すためには手厚い教育が必要であり、昔のように大講義室での一方的な授業がメインの「マスプロ教育」では済まないからです。だからこそ教育費負担の在り方も社会全体で考える必要があり、単なる水掛け論に終わらせてはいけないでしょう。

(筆者:渡辺敦司)

※文教・科学技術(4月17日の財政審財政制度等分科会提出資料)
https://www.mof.go.jp/about_mof/councils/fiscal_system_council/sub-of_fiscal_system/proceedings/material/zaiseia300417/03.pdf

※「図表でみる教育」2017年版 カントリーノート:日本
http://www.oecd.org/education/skills-beyond-school/EAG2017CN-Japan-Japanese.pdf

プロフィール


渡辺敦司

著書:学習指導要領「次期改訂」をどうする —検証 教育課程改革—


1964年北海道生まれ。横浜国立大学教育学部卒。1990年、教育専門紙「日本教育新聞」記者となり、文部省、進路指導問題などを担当。1998年よりフリー。初等中等教育を中心に、教育行財政・教育実践の両面から幅広く取材・執筆を続けている。

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