地理の学習で「持続可能な社会づくり」を

「SDGs」といえば、タレントのピコ太郎さんが外務省の求めに応じて国連の国際フォーラムで歌と踊りを披露したニュースを覚えているかたも多いことでしょう。
「持続可能な開発目標」のことで、地球環境の変動や災害、不平等、貧困などの課題を乗り越えて、世界中が今後も発展を続けていけるよう、国連が17項目の目標を定めています。これが次期学習指導要領で、地理をはじめとして学校教育の大きな目標の一つとなるというのですから、無関心ではいられません。

教科横断的な学習としても

3月に告示された小・中学校の次期指導要領は、総則の前文で、一人ひとりの児童生徒が「自分のよさや可能性を認識するとともに、あらゆる他者を価値のある存在として尊重し、多様な人々と協働しながら様々な社会的変化を乗り越え、豊かな人生を切り拓(ひら)き、持続可能な社会の創り手となることができるようにすることが求められる」としています。

中にはESD(持続可能な開発のための教育)という言葉を聞いたことがある保護者もいるかと思います。既に「ユネスコスクール」など一部の学校で取り組まれている教育活動を、全校に広げようというわけです。そして、それがグローバル社会を担う地球市民には必須の資質・能力だ……という認識が、そこにはあります。

ESDは、次期指導要領が目指す教科横断的な学習の代表例とも言うべきものです。環境をはじめ、国際理解、気候変動、生物多様性、防災など多様な学習内容がありますから、社会科はもとより、理科や家庭科、外国語科、道徳科、総合的な学習の時間など、関連する教科を連携させて学習に取り組むことが期待されます。

高校の必履修科目でも中心に

ただ、何といっても中心となるのは、社会科や地理歴史科の地理学習です。高校の次期指導要領は来年3月に告示される予定ですが、共通必修科目として「地理総合」、選択科目として「地理探究」を創設することが、既に決まっています。高校の科目になるということは、当然、「大学入学共通テスト」の出題科目にもなるということです。

指導要領の改訂を提言した昨年末の中央教育審議会答申では、地理総合は、「持続可能な社会づくりを目指し、環境条件と人間の営みとの関わりに着目して現代の地理的な諸課題を考察する」科目とされています。地理探究は、そうした学習をさらに発展させるものです。

単に知識・技能を覚えさせるだけでなく、アクティブ・ラーニング(主体的・対話的で深い学び、AL)による活用を通じて、思考力・判断力・表現力や学びに向かう力・人間性までを育てようというのが、次期指導要領全体の基調です。これまでの地理でも、作業学習を通じて思考力などを育成することを目指してきましたが、そうした方向性をいっそう深化させて、SDGsの担い手にまで資質・能力を高めよう……というのが狙いです。

「学者の国会」とも言われる日本学術会議も先頃、自然地理学と人文地理学を共に学ぶ「文理融合の総合性」を教員が身に付ける必要性を強調する提言をまとめました。もちろん文理融合は、今後の子どもたちにも求められることです。

グローバル化が進むなか、地球市民として責任ある行動を取り、持続可能な社会づくりに貢献する。子どもたちを、そんな社会の担い手に育てることが期待されているのです。

※中教審答申「幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善及び必要な方策等について」
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo0/toushin/__icsFiles/afieldfile/2017/01/10/1380902_0.pdf

※日本学術会議 提言「持続可能な社会づくりに向けた地理教育の充実」
http://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/kohyo-23-t247-6.pdf

(筆者:渡辺敦司)

プロフィール


渡辺敦司

著書:学習指導要領「次期改訂」をどうする —検証 教育課程改革—


1964年北海道生まれ。横浜国立大学教育学部卒。1990年、教育専門紙「日本教育新聞」記者となり、文部省、進路指導問題などを担当。1998年よりフリー。初等中等教育を中心に、教育行財政・教育実践の両面から幅広く取材・執筆を続けている。

子育て・教育Q&A