共通テストに複数の正解、なぜ…?

夏休みが明けると、高校3年生は、本格的に大学入試センター試験の対策に取り組み始める時期に入ってくることでしょう。ただ、いつまでも「対策」が通用するとは限りません。2021(平成33)年度入学者選抜(現在の中学3年生が受験)から、センター試験が「大学入学共通テスト」に替わり、出題傾向や出題形式が大きく変わるからです。

「思考力」「判断力」が不可欠な出題に

文部科学省が共通テストの実施方針を正式に決めたのに合わせて、大学入試センターが公表した国語と数学のモデル問題例では、正解を「一つ選べ」という従来の方式だけでなく、「二つ選べ」「全て選べ」という設問がありました。とりわけ「全て選べ」という問題では、多くても足りなくても不正解になってしまいます。

これまでのセンター試験のように「一つ選べ」ばかりの問題では、当てずっぽうにマークしても、偶然に正解できてしまうことがあります。あるいは、たとえば5つの選択肢があった場合、2つは明らかな間違いが含まれているから、3つまでに絞ることができる……といったテクニックも、まことしやかに語られてきました。

一方、共通テストでは、知識・技能が十分あるかを問いながらも、思考力・判断力・表現力等を中心に評価するとしています。表現力は記述式問題で問うとして、マークシート式では、センター試験以上に、思考力・判断力を働かせて解かなければならない問題が多くなると見られます。

そうなると、これからの勉強では、知識の暗記にばかり頼ってはいられません。普段の授業から、知識をもとに論理的に考え、たとえ正解がない課題でも、自分なりに解決策を見いだそうとする姿勢が求められます。

さすがに共通テストでは、正解のない問題は出ないでしょう。ただ、今回は示されませんでしたが、改革のもとになった「高大接続システム改革会議」の最終報告(2016<平成28>年3月)では、選択肢の組み合わせによって複数の解答があり得る「連動型複数選択問題(仮称)」を出題することも提案していました。出題形式は、まだまだ変わるかもしれません。

無視できなくなる「表現力」

大学入試センターは、記述式問題についても、モニター調査の結果を公表しました。同じ問題でも、マークシート式で回答させた場合と、記述式の場合とを比較しています。すると、マークシート式では約9~10割方の正答率でも、記述式だと約5~7割ほどに落ち込むことがわかりました。記述式に慣れていないせいだと言ってしまえばそれまでですが、普段から考えたことを表現する学習が不足していることを示す結果と見ることもできます。

国立情報学研究所の調査でも、中高生がテスト問題の意味がわからないか、きちんと読もうともしないため、キーワードだけで解こうとすることが少なくないことがわかっています。そんな解き方ばかりでは、人工知能(AI)に負けてしまいます。

配点が少なければ、記述式は捨ててマークシート式で点数を稼げ……。共通テスト「対策」なら、そんな発想も出てきそうです。ただ、全体の得点しか受験する大学に送られないセンター試験と違って、共通テストでは、設問や領域、分野ごとの成績も提供することを検討しています。アドミッション・ポリシー(入学者受け入れ方針)で思考力・判断力・表現力を重視すると表明している大学には、そんな姿勢は通用しなくなりそうです。

※大学入試センター「モデル問題例等について」(7月13日公表)
http://www.dnc.ac.jp/corporation/daigakunyugakukibousyagakuryokuhyoka_test/model.html

※高大接続システム改革会議「最終報告」の公表について
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shougai/033/toushin/1369233.htm

(筆者:渡辺敦司)

プロフィール


渡辺敦司

著書:学習指導要領「次期改訂」をどうする —検証 教育課程改革—


1964年北海道生まれ。横浜国立大学教育学部卒。1990年、教育専門紙「日本教育新聞」記者となり、文部省、進路指導問題などを担当。1998年よりフリー。初等中等教育を中心に、教育行財政・教育実践の両面から幅広く取材・執筆を続けている。

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