私立文系にも教育支援を 学術会議が提言

夏休みを控えた高校3年生は、そろそろ大学受験の志望校を絞ろうかと思いを巡らせ始める時期でしょう。今は2年生の段階で、文系か理系かを決めることが多いようです。
とりわけ人文・社会科学系は、学生数でも私立大学の占める割合が圧倒的に高くなっています。「学者の国会」とも言われる日本学術会議は、人文・社会科学の観点から先頃行った提言の中で、私大に対する教育支援の必要性を訴えています。私立文系の何が課題になっているのでしょうか。

教員一人当たりの学生数は多く

人文・社会系学部といえば2015(平成27)年6月、文部科学省が国立大学に対して「組織の廃止や社会的要請の高い分野」に転換させるよう通知したとの報道が大学関係者に衝撃を与え、学術会議も2度にわたって見解を公表するなど通知を批判した……ということがありました。実際のところ、通知は教員養成学部の「ゼロ免課程」(教員免許取得を目的としない課程)廃止に伴う学部改組に限った話だったのですが、「誤解」が一気に広がった背景には、通知文の「国語力の問題」(当時の馳浩文部科学相)だけでなく、それまでに人文・社会系に関する危機感が関係者に高まっていたこともあったようです。

提言でも指摘されているとおり、日本の大学生は男女とも半数以上が人文・社会系に属しています(教育分野の文系を含む)。また、理系の学生に対しても、人文・社会系の教養教育は不可欠です。

しかし、教員一人当たりの学生数を示す「ST比」は、文・人文25.1、社会・国際28.7、法・政治34.2%、経済・経営・商35.1などとなっており、とりわけ私大で高くなっています。これに対して理系では、理15.6、工21.4、農17.2、保健14.2など低めです。ST比が低ければ、それだけ学生の教育に手間暇を掛けられるわけで、ST比の高い人文・社会系では教育が手薄になっていないか、心配になる数値です。

文・理に分けているのは日本ぐらい

理工系は、研究はもとより教育面でも、実験・実習のための施設・設備に多額の予算が不可欠です。国からの助成金が抑制されるなか、とりわけ文・理両方の学部を抱える総合大学では、人文・社会系の学部や研究所が予算削減の格好のターゲットになっている面が否めません。

しかし、理工系でグローバル化に対応したり、イノベーション(技術革新)を起こしたりするにも、人文・社会系の教養は欠かせません。数多く輩出された人文・社会系の卒業生が社会を担っていることを考えれば、なおさらです。だからこそ学術会議は、授業料収入に依存している私大に関して、給付型や無利子の奨学金拡充などの教育支援を訴えているのです。提言を受けて、国にも高等教育予算の拡充が望まれます。

そもそも大学の教育・研究を文系と理系に分けているのは、日本ぐらいです。各大学には文・理を問わず、社会にどういう人材を輩出すべきかを考えたうえで、4年間の教育をしっかり見直してほしいものです。学生も、文系(理系)学部だから理系(文系)の知識は関係ない……などと考えてはいけないことは、言うまでもないでしょう。

※学術の総合的発展をめざして—人文・社会科学からの提言—(日本学術会議)
http://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/kohyo-23-t242-2.pdf

※馳浩文部科学大臣記者会見録(2015年10月9日)
http://www.mext.go.jp/b_menu/daijin/detail/1362686.htm

(筆者:渡辺敦司)

プロフィール


渡辺敦司

著書:学習指導要領「次期改訂」をどうする —検証 教育課程改革—


1964年北海道生まれ。横浜国立大学教育学部卒。1990年、教育専門紙「日本教育新聞」記者となり、文部省、進路指導問題などを担当。1998年よりフリー。初等中等教育を中心に、教育行財政・教育実践の両面から幅広く取材・執筆を続けている。

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