幅広い資質・能力の「評価」をどうする?

学校における「評価」というと、どんなイメージを持つでしょうか。おそらく多くの保護者は、通知表の評定、あるいはテストの点数やA~Dなど段階別判定を思い浮かべることでしょう。ただ、学校の先生など教育の専門家は、それだけではない捉え方をしています。次期学習指導要領も小・中学校で告示されたなか、これからの評価はどうあればよいのでしょうか。

「形成的」「指導との一体化」が引き続き重要

国立教育政策研究所はこのほど、「資質・能力の包括的育成に向けた評価の在り方の研究」と題する報告書をまとめました。資質・能力とは、次期指導要領が、どの教科などでも共通の柱で育成を目指す、(1)知識・技能(2)思考力・判断力・表現力等(3)学びに向かう力・人間性等……のことです。裏を返せば、(1)~(3)を評価する手立てを考えなければならないということです。(1)を覚えたかをペーパーテストで測り、評定を付ければ済む話ではありません。

ところで、学校はもともと、評定を付けたら指導が終わるというような仕事はしていないはずです。子どもの側から言えば「形成的評価」といって、評価を受けた子どもが自分の課題を把握し、よりよい方向に向かって努力していけるようにすることこそが重要です。また、教員の側からすれば「指導と評価の一体化」といって、子どもの力が十分に育っていないとすれば、それは自分の指導にも課題があったためだと反省し、授業の改善に生かすためでもあるのです。

報告書は、そうした「形成的評価」や「指導と評価の一体化」が日本の教育で重視されてきたことを確認したうえで、今後、児童生徒の「学習のための評価」の実現が大きな課題になっているとしています。

子ども自身が自己評価できる力を

ところで、今回の指導要領の改訂に当たっては、2014(平成26)年11月の中央教育審議会に対する文部科学相の諮問文にあるとおり、「教育目標・内容と学習・指導方法、学習評価の在り方を一体として捉え」ることを求めていました。資質・能力を育成するには、教育目標や内容を見直すだけでなく、アクティブ・ラーニング(AL)をはじめとする学習・指導方法の改善はもとより、学習評価の見直しも、同時に行わなければいけない……という考え方です。従来の改訂では、まず教育目標・内容が中心の指導要領を告示してから、学習評価は別途、通知表のもととなる「指導要録」を検討する会議を立ち上げ、学習・指導方法は各学校や教員の創意工夫に任せていた側面が強かったのも事実です。

そこで報告書は、指導方法の中に評価を組み込んで授業を計画・実践できるようにするような「指導と評価の一体化」の支援を行うとともに、国立大学附属学校や「国際バカロレア(IB)学校」などの取り組みに学びながら、子どもによる自己評価活動を重視して、子ども自身に自己評価力を身に付けさせることを提言しています。

資質・能力は、子どもが将来、社会に出た時に、自ら人生を切り開いていくためのものです。会社などでも評価や査定はつきものですが、重要なのは、自ら目標を立て、それに向かって努力し、課題があれば、改善して行動できる力です。そのような資質・能力を身に付けさせるためにも、改訂を契機に、評価の在り方が問われているのです。

※資質・能力の包括的育成に向けた評価の在り方の研究
http://www.nier.go.jp/05_kenkyu_seika/pdf_seika/h28a/syocyu-1-5_a.pdf

(筆者:渡辺敦司)

プロフィール


渡辺敦司

著書:学習指導要領「次期改訂」をどうする —検証 教育課程改革—


1964年北海道生まれ。横浜国立大学教育学部卒。1990年、教育専門紙「日本教育新聞」記者となり、文部省、進路指導問題などを担当。1998年よりフリー。初等中等教育を中心に、教育行財政・教育実践の両面から幅広く取材・執筆を続けている。

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