指導要領から「鎖国」なくなる…どう捉えればよい?

次期の学習指導要領(小学校は2020<平成32>年度から、中学校は21<同33>年度から)をめぐっては、歴史について江戸時代から「鎖国」がなくなったり、古代の「聖徳太子」に「厩戸王(うまやどのおう)」という本名が加わったりする変更があったことが話題になりました。どう考えればよいのでしょうか。

最新の研究動向を踏まえて

現行の指導要領では、小学校第6学年で、身分制度の確立と武士による政治の安定がわかるよう、キリスト教の伝来や織田・豊臣の天下統一、江戸幕府の始まり、参勤交代とともに「鎖国」についても調べることにしています。それが次期指導要領では「キリスト教の伝来、織田・豊臣の天下統一を手掛かりに、戦国の世が統一されたことを理解する」とされました。同様に中学校でも、江戸時代から「鎖国政策」が消えました。近年の研究で、長崎や対馬などを通じてオランダや中国、朝鮮などとの外交があったことから、「鎖国」はふさわしくないという学説が定説となったことからの変更です。

一方、現行指導要領では小・中とも「聖徳太子」とされていた表記を、小学校では「聖徳太子(厩戸王)」、中学校では「厩戸王(聖徳太子)」と変更されました。聖徳太子をめぐっては「実在しなかった」という説まで唱えられているほどで、少なくとも厩戸という名の王子は存在したこと、死後の尊称として「聖徳太子」と呼ばれたことも歴史的事実であることを反映したものです。

こうした変更は、日進月歩で進展する学問の定説を、できる限り取り入れようというもので、従来からあった姿勢です。たとえば鎌倉幕府の成立といえば、昔は「いい国(1192)つくろう鎌倉幕府」などと覚えたものですが、1180年説から1190年説まで多様な学説が唱えられるなか、現在では1185年説が有力となっているようです。
ただ、ここで考えたいのは、「定説」を丸覚えしようとする態度のままでよいのかということです。

ミニ歴史学者として、社会に生かせるよう考える

たとえば、小学校の歴史に関する第6学年の目標は、これまで「先人の業績や優れた文化遺産について興味・関心と理解を深める」などとされていましたが、次期指導要領では、「社会的事象の見方・考え方を働かせ、学習の問題を追究・解決する活動を通して(中略)資質・能力を育成することを目指す」などと変わっています。

教科ならではの見方・考え方を働かせて学ぶことを通じて、教科横断的に(1)知識・技能(2)思考力・判断力・表現力等(3)学びに向かう力、人間性等……という「資質・能力の三つの柱」を育成するというのが、今回の改訂の眼目です。なお、高校の地理歴史科で必履修となる新科目「歴史総合」でも、(1)近代化と私たち(2)大衆化と私たち(3)グローバル化と私たち……という「問い」を中心に、日本史と世界史の垣根を越えて近現代を理解・考察することにしています。

そこでは、社会科・地理歴史科は「暗記科目」のままではいられません。ミニ歴史学者として考え、多角的に考える力をつけながら、これからの社会生活に生かそうとする判断力や態度までが求められるのです。

※次期指導要領案(パブリックコメント)
http://search.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=PCMMSTDETAIL&id=185000878&Mode=0

(筆者:渡辺敦司)

プロフィール


渡辺敦司

著書:学習指導要領「次期改訂」をどうする —検証 教育課程改革—


1964年北海道生まれ。横浜国立大学教育学部卒。1990年、教育専門紙「日本教育新聞」記者となり、文部省、進路指導問題などを担当。1998年よりフリー。初等中等教育を中心に、教育行財政・教育実践の両面から幅広く取材・執筆を続けている。

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