「テストのための勉強」では高校生の動機付けにならず!?

定期考査や大学入試といった「テストのため」では、もう高校での勉強の動機付けにはならない……。そんな実態が、濱中淳子・大学入試センター教授らの研究で浮き彫りになりました。高校生に本当の勉強をしてもらうには、何が必要なのでしょうか。

一夜漬けでは身にならない進学中堅校

研究グループでは2012~15(平成24~27)年度、学習時間と大学入試との関連を探るため、東京近郊の2県で、地域の3~4番手校とされる公立「進学中堅校」6校の生徒を、入学から卒業まで、継続調査してきました。2013(平成25)年度からは、同地域内で進学中堅校より上位の公立「進学校」4校の同学年生徒を、比較対象として加えています。今回の発表は、研究の一環として、定期考査や教育産業の関わりに着目して分析したものです。

いずれの高校も、学年が上がるごとに平日の平均学習時間は増加していきますが、中堅校と進学校の差は卒業まで詰まることはなく、中堅校では、ほとんどの生徒が大学進学を目指しているにもかかわらず、3年生の2学期になっても、学習時間が平日30分以下という生徒が2割以上います。

テスト期間中に限ると、中堅校では1年生の3学期で平均2時間半ほど、3年生の2学期になると3時間を超えますが、3人に1人は依然3時間以下です。1日に3教科のテストがあるとしても、一夜漬けにさえ1時間以下しか費やしていないことになります。

3年生の1学期で「定期考査は難しい」と答えた中堅校の生徒(「よくあてはまる」と回答)は1割ほどで、「教科書を3回読めば8割ぐらいはとれる」(生徒インタビュー)のだそうです。ほんの少しの努力で、簡単な定期テストの点をそこそこ取り、あとは入れる大学に……となると、進学したあとで大変になるのではと心配になります。濱中教授も、学習の動機付けのためには「中堅校の教師にこそ、力量の高さが求められます」と指摘します。

入試対策より1年生からの学習習慣

では、進学校なら安心なのでしょうか。確かに定期テストは、生徒の4割が「難しい」と答え、教員の側でも「教師と生徒の本気の勝負」と胸を張るほど、取り組みがいのある問題が出されるといいます。

ただ、そうした定期テストや、普段の授業が、勉強の主要な動機付けになっているとは限りません。中堅校ほどではないにしても、塾・予備校に通う日数が多いほど、学習時間が増える傾向が、進学校にも見られます。「一般入試で合格するための近道は、学校の成績をあげることだ」と思わない生徒は、通塾していない生徒では3人に1人ほどですが、6~7日通う生徒では2人に1人を占めます。塾・予備校を重視して学校の授業を軽視する傾向は、進学校でも同じなのです。しかし、3年生の1学期の学習時間は、中堅校・進学校を問わず、1年生の時にどれぐらい学習時間があったかで左右されることもわかっています。

大学全入時代に突入する一方、今後の大学入試では、知識・技能はもとより、思考力・判断力・表現力や主体性・多様性・協働性までもが問われます。そのためにも、授業を通じて生徒に勉強への動機付けを行い、幅広い学力を付けさせることが求められます。それこそが、高校教育・大学教育・大学入試を一体とした「高大接続改革」の眼目なのです。

※日本教育社会学会第68回大会発表「高校生の学習行動を問い直す—定期考査と教育産業の位置付けに着目して」
http://www.jses2016.info/file/68thprogram3.pdf

(筆者:渡辺敦司)

プロフィール


渡辺敦司

著書:学習指導要領「次期改訂」をどうする —検証 教育課程改革—


1964年北海道生まれ。横浜国立大学教育学部卒。1990年、教育専門紙「日本教育新聞」記者となり、文部省、進路指導問題などを担当。1998年よりフリー。初等中等教育を中心に、教育行財政・教育実践の両面から幅広く取材・執筆を続けている。

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