耐震化だけでは済まない、学校施設の整備

この夏休み中、校舎などの改修工事が行われた学校は、少なくなかったことでしょう。東日本大震災を契機として、国の後押しもあり、今年4月の段階で、公立小中学校の耐震化率は98.1%、つり天井の落下防止対策の実施率も95.0%に達しました。あと数%で安心だ……と思いたいところですが、そう言ってもいられないようです。今年4月に発生した熊本地震の教訓も併せて考えると、さまざまな課題が浮かび上がってくるからです。

老朽化対策も急務

熊本地震の被害を受けて、文部科学省の有識者検討会は、学校施設の整備に関する緊急提言をまとめました。そこでは、「安全対策の観点からの老朽化対策」を打ち出していることが注目されます。

熊本では、最大震度7の地震が2回続けて発生しました。それでも県内では、公立学校の耐震化が完了していたため、倒壊や崩壊はありませんでした。2回とも発生は夜でしたが、たとえ昼間の授業中であっても、子どもたちや先生の命は守れたわけです。やはり耐震化が重要であることを示した事例であり、残り数%の学校施設にも、早急な耐震化が望まれます。

しかし熊本地震では、3か月間で約1,900回の余震が続き、その後の被害で壁が崩れるなどして、避難所として使い続けることができなくなるケースが相次ぎました。そこでクローズアップされてきたのが、老朽化対策の遅れです。

2011(平成23)年5月時点のデータですが、築25年以上で改修が必要な公立小中学校の施設は、65.4%を占めていました。それでも学校を設置する自治体は財政難で、将来の学校統廃合なども見越すと、なかなか建て替えには踏み切れません。そこで文科省は「長寿命化」の方針を打ち出していたのですが、やはり震災後の学校教育を継続するには、本格的な老朽化対策に乗り出さなければいけなくなっているようです。

避難所機能も学校予算頼り!?

もう一つが、「避難所機能の確保」です。熊本地震でも、最大366校が避難所となりました。これは避難所全体の約5割に当たり、熊本市では最大約11万人中6万人が詰め掛けたといいます。避難所に指定されていない学校でも、多くの避難者を受け入れました。やはり、どの学校であっても避難所機能を備えておくことが求められます。

しかし、備蓄倉庫や「マンホールトイレ」などを除けば、ほとんどの自治体では、避難所機能の整備も、学校施設予算で賄われているのが現状です。東日本大震災の際、子どもたちが自らの判断で行動して命を守った「釜石の奇跡」を指導したことで知られる片田敏孝・群馬大学大学院教授は、検討会で、本来は自治体職員が行うべき避難所運営を学校の教職員が担ったことも含めて、防災部局の「フリーライド」(ただ乗り)だと厳しく指摘しました。緊急提言では、「学校施設予算のみならず、防災関連予算や下水道予算、情報通信関連予算等の関係行政分野の予算も活用しながら整備していくことが必要」だとしています。

学校施設は、子どもの命を守るだけでなく、家族の避難場所ともなりますし、学校再開に向けた対応も想定しておかなければなりません。避難計画も含め、事前に地域ぐるみでよく検討することが不可欠です。

※「熊本地震の被害を踏まえた学校施設の整備について」緊急提言の取りまとめについて
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shisetu/043/gaiyou/1374803.htm

(筆者:渡辺敦司)

プロフィール


渡辺敦司

著書:学習指導要領「次期改訂」をどうする —検証 教育課程改革—


1964年北海道生まれ。横浜国立大学教育学部卒。1990年、教育専門紙「日本教育新聞」記者となり、文部省、進路指導問題などを担当。1998年よりフリー。初等中等教育を中心に、教育行財政・教育実践の両面から幅広く取材・執筆を続けている。

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