次期指導要領、「知識」も重要!

夏休み、たくさんの宿題が出されているお子さまもいらっしゃるでしょう。中央教育審議会が現在、全面改訂を検討している学習指導要領では、「アクティブ・ラーニング」(課題の発見・解決に向けた主体的・協働的な学び、AL)と呼ばれる学習・指導方法の導入が目玉の一つとなっていますが、忘れてはいけないことがあります。これまでと同様に「知識」も重要であるということです。

「ゆとり」か「詰め込み」か、ではなく

馳浩(はせひろし)文部科学相が「脱ゆとり」を宣言……。5月に流れたニュースを覚えていらっしゃるかたも多いでしょう。確かに記者会見で、馳文科相自身が「どこかで、ゆとり教育との決別宣言を明確にしておきたいと思っていた」と説明したので、少しセンセーショナルな扱いになりました。

実際に公表されたメッセージ文には、確かに「『ゆとり教育』か『詰め込み教育』かといった、二項対立的な議論には戻らない」とあります。「『ゆとり教育』には戻らない」ではなく、「二項対立には戻らない」であることに、注意しておく必要があります。現行の指導要領のもとになった中教審答申(2008<平成20>年1月)にも、「ゆとり」か「詰め込み」かの二項対立を乗り越えると、既に明記されていました。
むしろ「学習内容の削減を行うことはしない」という部分に注目すべきでしょう。あとの部分でも、「『アクティブ・ラーニング』の視点は……知識の量を削減せず、質の高い理解を図るための学習過程の質的改善を行う」としています。

実は、ALが注目されるに従って、かつて教育内容の削減が「ゆとり教育」と批判されたように、ALも「ゆとり教育」の復活ではないか……と心配する声が、一部から上がっていました。馳文科相のメッセージは、そんな心配を一掃しようと発せられたものだったのです。

「活用」で思考力など育成

次期指導要領では、すべての教科について、(1)知識・技能 (2)思考力・判断力・表現力等 (3)学びに向かう力、人間性等(高校は主体性・多様性・協働性)……という、共通した「育成すべき資質・能力」の三つの柱で整理し、構造化することにしています。知識・技能を活用して、思考力・判断力・表現力などを育てる……という点では、現行指導要領と何ら変わりません。というより、(1)~(3)を一体のものとして育成する道筋をより明確化しようというのが、指導要領改訂のねらいなのです。

児童・生徒も、予習・復習で、しっかり知識・技能を身に付けることが求められます。しかし、知識を覚えさえすればよいと考えてはいけません。知識をもとに、ALで話し合いや調べ学習をしながら、他の教科の学習や、社会に出ても活用できるような資質・能力にまで引き上げていく必要があります。

うろ覚えの知識も、ALで活用することによって、しっかり定着するだけでなく、深い理解となることが期待されます。全国学力・学習状況調査(全国学力テスト)のように、「知識」(A問題)も「活用」(B問題)も重要だ……ということを、くれぐれも忘れてはいけません。夏休み中は、知識も体験も、ぜひ豊富に身に付けたいものです。

  • ※教育の強靭(じん)化に向けて(文部科学大臣メッセージ)について(平成28年5月10日)
  • http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/28/05/1370648.htm

(筆者:渡辺敦司)

プロフィール


渡辺敦司

著書:学習指導要領「次期改訂」をどうする —検証 教育課程改革—


1964年北海道生まれ。横浜国立大学教育学部卒。1990年、教育専門紙「日本教育新聞」記者となり、文部省、進路指導問題などを担当。1998年よりフリー。初等中等教育を中心に、教育行財政・教育実践の両面から幅広く取材・執筆を続けている。

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