小学校のプログラミング教育、なぜ扱いが学校の裁量に?

2020(平成32)年度以降、小学校で「プログラミング教育」が必修化される見通しになりました。ただし、どの学年や教科で実施するかは、各学校に任せるといいます。なぜ、そのようになったのでしょうか。

これまでのプログラミング教育

これまでもプログラミング教育は、中学校の技術・家庭科(技術分野)や、高校の情報科で扱われていました。次期の学習指導要領(2020<平成32>年度以降に順次、全面実施の予定)でも更なる充実が検討されていましたが、小学校では引き続き、実施は予定されていませんでした。それが、ICT(情報通信技術)の進展に伴う「第4次産業革命」を成長戦略に位置付けたい政府の方針を受けて、文部科学省が急きょ有識者会議を設けて検討していたのです。

小学校のプログラミング教育が学校の裁量になった二つの背景

3回にわたる会合の結果、小学校でもプログラミング教育を行うよう、指導要領の「総則」に定めるものの、どの学年や教科等で行うかは、特に指定しないことにしました。それには、二つの背景があります。

まずは、現実的な問題です。次期指導要領では、小学校英語を充実する方針が既に決まっていました。高学年で「英語」を教科化して年間70時間実施し、これまでの「外国語活動」同35時間は中学年に降ろすのですが、それぞれ増える35時間分(週1コマに相当)は、入れるコマ数がないため、各学校で、朝などの短時間学習(10~15分)や60分授業(45分+15分)、夏・冬休み期間中の集中実施などにより、工夫して捻出してもらうことにしていたほどです。また、他の教科等の内容も「ゆとり教育には戻さない」という方針の下、一切減らさないと宣言しています。たとえ数時間分の単元であっても、新たな時間数を入れる余裕はありません。

もう一つは、本質的な問題です。プログラミング教育というと、プログラミング言語を書くこと(コーディング)を学ぶものだと思われがちですが、今ある言語も技術の進展で、いずれ古くなります。むしろプログラミングを通じて、コンピューターを使って何かができることを知るとともに、プログラムをつくるための論理的な思考力を身に付けるといった普遍的な「プログラミング的思考」のほうが先決だ……と考えました。それなら従来の教科の中でも取り入れられるだろうというわけです。具体的には、総合的な学習の時間・理科・算数・音楽・図工・特別活動を挙げています。

そのうえで、児童・生徒がもっと学んでみたいと思う場合には、課外や学校外での学習機会を充実させることにしています。

スマートフォン(スマホ)一つ取っても、今やプログラミングと無縁な生活は考えられません。AI(人工知能)が代替する人間の仕事が広がっていく中で、AIに使われる人間になるか、AIを使いこなす人間になるかの岐路に立たされている……という指摘さえあります。そうした点でもプログラミング教育は、未来を生きる子どもたちに必須だといえます。
子どもたちが将来、社会で大いに活躍できるようにするためにも、学校内外が相まったプログラミング教育の充実を期待したいものです。

  • ※小学校段階におけるプログラミング教育の在り方について(議論の取りまとめ)
  • http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shotou/122/houkoku/1372522.htm

(筆者:渡辺敦司)

プロフィール


渡辺敦司

著書:学習指導要領「次期改訂」をどうする —検証 教育課程改革—


1964年北海道生まれ。横浜国立大学教育学部卒。1990年、教育専門紙「日本教育新聞」記者となり、文部省、進路指導問題などを担当。1998年よりフリー。初等中等教育を中心に、教育行財政・教育実践の両面から幅広く取材・執筆を続けている。

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