「できる子」を伸ばす教育に力 教育再生実行会議を受けて

政府の教育再生実行会議は先頃、「全ての子供たちの能力を伸ばし可能性を開花させる教育へ」と題する第9次提言をまとめました。これを受けて、文部科学省も今後、発達障害など困難を抱える子どもはもとより、特に優れた才能のある子をさらに伸ばす教育にも、いっそう力を入れていくことになりそうです。

リーダーシップの育成も

第9次提言では、「多様な個性が生かされる教育の実現」として、以下などに取り組むとしています。

1.発達障害など障害のある子どもたちへの教育
2.不登校等の子どもたちへの教育
3.学力差に応じたきめ細かい教育
4.特に優れた能力を更に伸ばす教育、リーダーシップ教育
5.日本語能力が十分でない子どもたちへの教育
6.家庭の経済状況に左右されない教育機会の保障

このうち特に注目されるのは、4でしょう。これまでの学校教育、とりわけ公立学校では、児童・生徒全体の底上げが中心で、「できる子」を更に伸ばすことは、エリート教育を助長するものとして、なかなか推進しにくかったことも事実です。文科省が2002(平成14)年度から高校での国際的な科学技術系人材の育成を目指した「スーパーサイエンスハイスクール」(SSH)の指定を始め、14(同26)年度から国際的に活躍できるグローバルリーダーを育成する「スーパーグローバルハイスクール」(SGH)事業を追加したことが、目を引くぐらいでしょうか。1997(平成9)年から制度化された大学への飛び入学も、98(同10)年度から2015(同27)年度の18年間に9大学で117人が入学したにすぎません。

一方、地方レベルでは「次世代リーダー育成道場」(東京都)、「ネクストリーダー養成塾」(宮城県)などの取り組みも始まっています。

「適応」を迫るのではなく

提言に掲げられたメニューは、障害や不登校、学力差への対応など、総花的な印象を持つかもしれません。ただ、もともと日本の教育界にあった「どの子も伸ばす」という理想を、政権の最重要政策である「一億総活躍」の理念の下で、さらに発展させるものだ……という見方もできます。つまり1~6は、いずれも関連し合っているのです。

東京大学先端科学技術研究センターと日本財団が2014(平成26)年から実施する「異才発掘プロジェクトROCKET」が、その好例でしょう。突出した能力があるのに、現状の教育環境になじめず、不登校傾向にある小・中学生を選抜して、学習や生活をサポートすることにより、日本をリードし、イノベーション(革新)をもたらす人材として、積極的に育成しよう……というものです。

ご家庭でも、お子さんの「できない」面ばかり気にするのではなく、「できる」ことを積極的に励ましてあげる姿勢が大切でしょう。それが将来、活躍のチャンスを広げる可能性が、徐々に開けつつあるのです。

  • ※教育再生実行会議第9次提言 本文および参考資料
  • http://www.kantei.go.jp/jp/singi/kyouikusaisei/teigen.html

(筆者:渡辺敦司)

プロフィール


渡辺敦司

著書:学習指導要領「次期改訂」をどうする —検証 教育課程改革—


1964年北海道生まれ。横浜国立大学教育学部卒。1990年、教育専門紙「日本教育新聞」記者となり、文部省、進路指導問題などを担当。1998年よりフリー。初等中等教育を中心に、教育行財政・教育実践の両面から幅広く取材・執筆を続けている。

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