奨学金はどうあるべきか 大学の教育費負担について焦点化

大学の奨学金の在り方について、社会的な関心が急速に高まっています。大学進学率の上昇と、授業料などの高騰で、今や奨学金は、経済的に余裕のない家庭はもとより、中所得層以上の家庭にとっても、なくてはならない存在です。一方で、奨学金が実質的な「学生ローン」になっているという批判の他、大学を卒業しても正規雇用の就職さえ危ぶまれるなか、将来の返還を恐れて、進学自体を断念するケースも少なくない……という指摘もあります。こうした状況に対して、政官界でさまざまな動きが出ています。

日本学生支援機構(JASSO、旧日本育英会)の奨学金は、たとえば私立大学自宅生が毎月5万4,000円を借りた場合、卒業後、毎月1万4,400円の返還を15年間続けることになります。2012(平成24)年度以降は、年収が300万円になるまでの間、返還期限を猶予する「所得連動返還型無利子奨学金制度」も選べるようになっています。しかし同制度では、年収が300万円を1円でも超えると、すぐに1万4,400円の満額返還が始まってしまいます。そこで政府は、マイナンバー(社会保障・税番号)制度の導入に伴う2017(平成29)年度以降、年収額に応じて返還額も決まる「新たな所得連動返還型奨学金制度」に移行させることにしました。

文部科学省の有識者会議がまとめた案では、年収がゼロでも、卒業後すぐに毎月2,000円の返還を求める一方、年収が144万円を超えた段階で、控除などを除いた所得額の9%を返還額とします。たとえば年収300万円(所得額119万円)の場合は月額8,900円、500万円(同246万円)の場合は1万8,500円となります。もちろん、定額返還を選ぶことも可能ですし、新しい所得連動型を選ぶ際にも、月2,000円の返還さえ厳しい場合は、これまでどおり返還猶予を申請することができます。

  • ※新たな所得連動返還型奨学金制度の創設について(第一次まとめ)
  • http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/koutou/069/gaiyou/1369437.htm

新制度は仕組みが複雑ですが、高校3年生の段階で申し込む「予約採用」が近く始まりますので、詳しくは高校の先生に聞いてみるとよいでしょう。JASSOも、ホームページなどで周知に力を入れたいとしています。

それでも、「借りたものは返す」というJASSO奨学金の原則に、変わりはありません。このため諸外国のように、給付型の奨学金を導入すべきだという声も強まっています。政府は、これまで有利子奨学金の採用枠を拡大することで、学生のニーズに対応してきましたが、現在は「有利子から無利子へ」に方針を転換し、返還の負担を軽減しようとしています。しかし、返還を求めない給付型奨学金の導入には、多額の財政支出が必要になるため、慎重な姿勢を取ってきました。

安倍晋三首相は、2016(平成28)年度予算が成立した3月29日の記者会見で、給付奨学金を創設する方針を表明しました。しかし、これはJASSO奨学金と別に設けられている「まごころ奨学金」(預保納付金支援事業)の話のようです。保護者が犯罪被害に遭った子どもを対象に、振り込め詐欺被害の返金残余金を原資として貸与している奨学金を、給付型に移行しようというものです。

奨学金の在り方は、今夏から18歳選挙権が始まることを視野に、与野党で攻防が始まっています。この機会に、大学の教育費負担はどうあるべきか、本格的な論議を期待したいものです。

(筆者:渡辺敦司)

プロフィール


渡辺敦司

著書:学習指導要領「次期改訂」をどうする —検証 教育課程改革—


1964年北海道生まれ。横浜国立大学教育学部卒。1990年、教育専門紙「日本教育新聞」記者となり、文部省、進路指導問題などを担当。1998年よりフリー。初等中等教育を中心に、教育行財政・教育実践の両面から幅広く取材・執筆を続けている。

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