奨学金返還「新制度」の論点は? 今の高2から選択可

日本学生支援機構の奨学金(大学・短大・専門学校などが対象)について、卒業後の所得に応じてより柔軟な返し方ができる新制度を、文部科学省の有識者会議が検討していますが、その内容が、徐々に固まってきています。今の高校2年生(2017<平成29>年度新規貸与者)から、定額を毎月返すのか(定額返還型)、年収に応じて返還額を変えるのか(所得連動型)を選べるようになる見通しです。

現在も、定額返還型だけでなく、申請すれば、年収が300万円を超えるまで、返済が猶予される「所得連動返還型奨学金制度」(現行)が、2012(平成24)年度から実施されています。
月5万4,000円を4年間(総額259万2,000円)借りるケースの試算で見てみましょう(以下同じ)。定額返還型なら月1万4,400円を15年間にわたって返し続けるわけですが(申請で通算10年の猶予も可能)、現行の所得連動型を選んだ場合、年収が300万円を1円でも超えたら、月1万4,400円の返済が始まる「ゼロか1か」の制度になっています。しかも、期間制限はありませんから、一定以上の年齢になってようやく300万円を超えたとすると、定年を過ぎてからも延々と定額を返し続けることが必要になります。

新制度では、まず、定額返還型でも、返還額と返還年数を選べる「拡張版」の導入が検討されています。月1万800円なら20年間、月2万1,800円なら10年間で返し終わる計算です。さらに「新所得連動型」では、卒業直後から数千円の最低返還月額を設定しつつ、年収300万円で月8,500円、年収400万円で月1万3,100円、500万円で月1万8,100円、年収600万円で月2万3,100円を返す(課税対象所得に対する返還率9%の場合)といった格好を想定しています。

いつまで返還を求めるかも課題です。現行は「借りたものは返す」の原則から、全額が返還されるまで期限はありませんが(通常返還の場合は最長35年間)、現在でも高等教育機関を卒業した30~50代のうち、年収300万円未満の人が3人に1人を占めています。定年を過ぎてまで延々と返還猶予の申請を毎年求めるというのも、回収コストがかさむだけです。そこで、返還期間を35年間とする案が有力になっています。その場合、回収不能額が出てくることが避けられず、国費などによる穴埋めが必要になります。

  • ※文部科学省 奨学金事業関係資料
  • http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/koutou/069/gijiroku/__icsFiles/afieldfile/2015/10/13/1362547_12.pdf


専業主婦・主夫やニートなど、収入がゼロか、少ない人の扱いも課題になります。扶養者(配偶者や父母など)の収入額と合わせて、返還額を算出する案が有力です。
まずは無利子奨学金から導入することにしており、有利子は当面、対象外になる見通しです。政府は無利子の貸与人数を拡大しているものの(2016<平成28>年度予算案で前年度比5,000人増の46万5,000人)、87万人を超える有利子貸与者にとっては負担が重いままです。

国の奨学金制度は、返還金を次の貸与の原資とする「リレー方式」を採っていますが、進学率が上昇する一方で、授業料も含めて高騰する一方の高等教育の費用を、いつまでも家計任せでよいのか、本格的に議論する必要もありそうです。

プロフィール


渡辺敦司

著書:学習指導要領「次期改訂」をどうする —検証 教育課程改革—


1964年北海道生まれ。横浜国立大学教育学部卒。1990年、教育専門紙「日本教育新聞」記者となり、文部省、進路指導問題などを担当。1998年よりフリー。初等中等教育を中心に、教育行財政・教育実践の両面から幅広く取材・執筆を続けている。

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