いまだ見えない「新テスト」問題のイメージ‐渡辺敦司‐

大学入試センター試験の後継である「大学入学希望者学力評価テスト(仮称)」の創設をはじめとする「高大接続改革」をめぐり、文部科学省は9月半ばに公表した高大接続システム改革会議「中間まとめ」に対するパブリックコメント(意見公募手続)を実施しています(11月30日まで)。これに先立ち、同会議では高校・大学・短大の関係団体からヒアリングを実施したのですが、出席者からは「出題イメージを早く示すべきだ」などの注文が出されました。新テストをめぐる状況は今、いったいどうなっているのでしょうか。

高大接続改革は、これまでも紹介してきたとおり、単なる「大学入試改革」ではなく、大学教育と高校教育のそれぞれと、その間をつなぐ大学入学者選抜を、一体で改革しようというものです。その一環としての大学入学者選抜では、高校版・全国学力テストともいうべき「高等学校基礎学力テスト(仮称)」で「知識・技能」を中心に測定する一方、学力評価テストでは「思考力・判断力・表現力」を中心に据え、大学の個別選抜では、両テストで担保された学力に加え、各大学の教育方針に沿って「主体性・多様性・協働性」を加味して選抜してもらおう……という構想です。
この「知識・技能」「思考力・判断力・表現力」「主体性・多様性・協働性」は「学力の3要素」と呼ばれるもので、高校以下の学校教育で育成が重視されている学力です。高大接続改革においては、このうち「主体的に学習に取り組む態度」を「主体性・多様性・協働性」に置き換え、残りの二つの学力とともに、大学でも育成すべきものだと位置付けました。

しかし、思考力・判断力・表現力を中心に出題する学力評価テストのイメージは、改革を提言した昨年12月の中央教育審議会答申(外部のPDFにリンク)の段階で、必ずしも固まっていたわけではありませんでした。中教審の特別部会では、具体例として全国学力・学習状況調査(全国学力テスト)のB問題(主に活用)や、代表的な国際学力調査である「生徒の学習到達度調査」(PISA)の問題が例示されていましたが、これらは初等中等教育の問題であるばかりでなく、「調査」のための出題です。学力評価テストが目指すような、幅広い学力を持った大学入学希望者の選抜に耐え得るテスト問題として本当に出題できるのか、当時から専門家の間にも疑問視する向きが少なくありませんでした。
システム会議のヒアリングでは、中間まとめ段階でも示されなかった新テストの出題イメージに、関係者が業を煮やした格好です。文科省は、年内に最終報告をまとめ、年度末までにはイメージを公表したい考えですが、裏を返せば事実上、今はまだ十分に示せる状態に至っていないということを意味します。

ただし、学力の3要素をバランスよく判定して入学者選抜を行おうという高大接続改革の基本は変わらないでしょう。大学入学希望者は、テストの出題形式に左右されることなく、授業などを通じて幅広い学力を身に付けるよう心掛けることを忘れてはなりません。


プロフィール


渡辺敦司

著書:学習指導要領「次期改訂」をどうする —検証 教育課程改革—


1964年北海道生まれ。横浜国立大学教育学部卒。1990年、教育専門紙「日本教育新聞」記者となり、文部省、進路指導問題などを担当。1998年よりフリー。初等中等教育を中心に、教育行財政・教育実践の両面から幅広く取材・執筆を続けている。

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