大学への「社会的要請」とは? 学術会議、国立大の再編に批判

日本を代表する科学者の集まりである「日本学術会議」は、文部科学省が進めている国立大学改革を批判する声明(外部のPDFにリンク)を出しました。声明は、国立大学改革の中で、文科省が人文社会科学系学部の廃止や組織の見直しを要請したことに異議を唱えたものですが、その背景には、現在の大学に対する「社会的要請」とは何かという問題があるようです。

以前に当コーナーでも取り上げましたが、文科省は国立大学に対して大学組織の改革を推進するよう通知(外部のPDFにリンク)を出しました。その中で、人文社会科学系学部・大学院について「組織の廃止や社会的要請の高い分野への転換に積極的に取り組むよう努めること」を求めています。これについて人文社会科学系を中心とする大学関係者らが強く反発していることも、お伝えしたとおりです。
そして、とうとう日本で最も権威ある科学者団体の一つである学術会議も、批判的な声明を出すに至ったわけです。文科省通知について、日本の人文社会科学のゆくえ、国公私立大学全体の在り方などについて大きな影響を及ぼす可能性があり、人文社会科学系学部などの廃止・転換を求めたことについて「大きな疑問がある」としています。

現在の大学改革の柱の一つは、グローバル人材の育成です。しかしグローバル人材について、学術会議の声明では「国際的な競争力をもつ人材」というだけではなく、「文化的多様性を尊重しつつ、広く世界の人びとと交わり貢献することができるような人材」であると指摘。そのために必要な論理的思考力、判断力などを育てるのが人文社会科学系の学問の役割であると強調したうえで、人文社会科学系の学問の軽視は「大学教育全体を底の浅いものにしかねない」と懸念を表明しています。

一見すると声明は、人文社会科学系の学問の擁護を打ち出しているように見えます。ところが、問題はそれだけではなさそうです。
文科省は、国公私立大学全体を通じて、教育成果や研究成果を重視した予算配分を強化しています。すると、どうしても理工系分野が重視されるようになり、人文社会科学系の学問や、理工系でも短期的には成果が出ない基礎研究分野には、予算が回らない傾向が強まっています。また、即戦力となる人材の育成など「社会的要請」を受けて、職業に即した実学的教育が重視されつつあります。これらに対して声明は、「長期的な視野に立って知を継承し、多様性を支え、創造性の基盤を養う」ことも、大学に求められている「社会的要請」であると訴えています。

経済界などが求める即戦力となる人材の育成や研究・教育で目に見える成果を上げることが大学の役割なのか、それとも社会の知的な豊かさを支えることが大学の役割なのか。もちろん、双方とも大切なことですが、そのバランスをどう取るのか。大学に対する「社会的要請」とは何かという問い掛けは、今後の大学の在り方をめぐって、大学志望者やその保護者にとっても決して無関係とはいえない問題でしょう。


プロフィール


斎藤剛史

1958年茨城県生まれ。法政大学法学部卒。日本教育新聞社に入社、教育行政取材班チーフ、「週刊教育資料」編集部長などを経て、1998年よりフリー。現在、「内外教育」(時事通信社)、「月刊高校教育」(学事出版)など教育雑誌を中心に取材・執筆活動中。

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