「生活スキル」、学校とも密接な関係……?

先の記事で、「叱咤(しった)激励」的な子育てでは社会生活に必要な力があまりつかないという、独立行政法人国立青少年教育振興機構の調査結果を紹介しました。家庭で子どもにどう接すればよいか、どう接してはいけないかを教えてくれる、大変興味深い結果と言えるでしょう。ところで、既に記事の中で紹介されているとおり、この調査では社会生活に必要な力を「~スキル」(技能)として定義していることに注目したいと思います。これらの「生活スキル」は家庭内にとどまらず、学校教育にも大きく関係してくるからです。

調査の正式名称は、「子供の生活力に関する実態調査」でした。生活スキルを通じて、子どもの「生活力」を見ようというわけです。これと似たような言葉として、学校の先生から「生きる力」(外部のPDFにリンク)という言葉を聞いたことはありませんか? ただし「生きる力」は生活力よりもっと大きな概念であり、(1)確かな学力(知識・技能、思考力・判断力・表現力、学習意欲) (2)豊かな心 (3)健やかな体……という知・徳・体のバランスが取れた力を指しています。前の学習指導要領(小・中学校は1998<平成10>年告示、2002<同14>年度から全面実施)から掲げられている理念です。

しかし、何をもって「生きる力」が身に付いたといえるのでしょうか。「確かな学力」のうちの知識・技能や、「健やかな体」の運動能力などは数値で測りやすく、思考力・判断力・表現力も全国学力・学習状況調査(全国学力テスト)のB問題のように「活用」の力として測定することも一部教科で始まっていますが、ほかの測りにくい「力」はどうするのか、さらには3つの力がお互いにどう関連するかも必ずしも明確ではなく、「抽象的な概念が教育政策のスローガンとして掲げられる」(調査を担当した青山鉄兵・文教大学専任講師)側面が否めませんでした。

いま、次の指導要領(2020<平成32>年度の小学校から順次全面実施)を、どう改訂するかについての検討が進められています。既に紹介した「21世紀型能力」のように、学んだスキル(基礎力)が考える力(思考力)となり、学校生活のみならず社会生活にまで生きて働く力(実践力)にまで結び付かなければなりません。これまで抽象的だった「生きる力」を具体化し、子どもたちに着実に身に付けさせるようにすることが、「資質・能力」(コンピテンシー)として「何ができるようになるか」を重視する、次期指導要領の課題です。

生活力に関しては、調査の報告書(外部のPDFにリンク)でも指摘しているとおり、昔は子どもが日常生活の中で自然に身に付けていたものが多いけれども、今では一般的に身に付けづらくなったというだけでなく、家庭環境や保護者の接し方によって「格差」が起こる心配があります。それが調査結果の分析のように、高卒後の進路にまで影響を与えているとしたら重大です。家庭で不十分なら学校や地域で補うといったように、社会総がかりで一人ひとりの子どもが次代に活躍できるスキルを着実に身に付けられるようにしなければなりません。今回の「生活スキル」調査は、それだけ大きな意義を持つものなのです。


プロフィール


渡辺敦司

著書:学習指導要領「次期改訂」をどうする —検証 教育課程改革—


1964年北海道生まれ。横浜国立大学教育学部卒。1990年、教育専門紙「日本教育新聞」記者となり、文部省、進路指導問題などを担当。1998年よりフリー。初等中等教育を中心に、教育行財政・教育実践の両面から幅広く取材・執筆を続けている。

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