大学教育の改革、入試改革より早く進む?-渡辺敦司-
中央教育審議会が「高大接続改革」について下村博文文部科学相に答申(外部のPDFにリンク)しました。どうしても「入試改革」に注目が集まりがちですが、答申をよく読むと、「高校教育」と「大学教育」を変えるために「大学入学者選抜」も一体的に改革するという論理構成を採っています。そして、その大学教育は、既に変わりつつあります。
文部科学省が2013(平成25)年11月に公表した2012(平成24)年度「大学における教育内容等の改革状況」によると、「コミュニケーション能力、課題発見・解決能力、論理的思考力等の能力の育成を目的とした授業科目を開設している大学数」は全体の76%に当たる566大学で、前年度に比べ4ポイント、38大学増加しました。これに比べれば「獲得した知識などを新たな課題に適用し課題を解決する能力の調査・測定を実施している大学数」はまだ少数にとどまっているものの、前年度の83大学(全体の11%)から110大学(同15%)へと3桁に乗りました。こうした多様な授業などに対応して、学生が自主的に集まってグループワークをしたり、個人で自習したりする「ラーニング・コモンズ」と呼ばれるスペースを図書館などに整備している大学は42%(前年度比8ポイント増)に当たる321大学(同64大学増)と急速に増えています。
これは2年前の調査ですから、現在は実施大学がもっと増えているものと見られます。というのも、こうした能力の育成が新たな時代の大学の役割として、企業など社会から求められているからです。
そもそも今回の高大接続に関して中教審に諮問があったのは、ちょうど調査の対象年度だった2012(平成24)年の8月。時はまだ民主連立政権下でした。この日の中教審総会では、大学教育の「質的転換」を求める答申があり、それを受けて平野博文文科相(当時)が間髪入れず諮問を行ったのです。
中教審でこの質的転換答申を主導したのは、当時の安西祐一郎・大学分科会長でした。安西部会長はその後、諮問を受けて発足した高大接続特別部会長の部会長を兼任し、2013(平成25)年2月には中教審会長に昇任しました(高大接続特別部会長も兼任)。安西会長は元慶応義塾長(慶応大学長)であり、トップクラス大学の代表として、旧態依然とした大学教育を行っていては社会からの要請に応えられないばかりか、日本の大学が世界に肩を並べることはできないという危機感を持っていました。そうした認識は、かねて文科省も共有していたところです。
今回の答申で、1点刻みの大学入試を改めるといった大胆な提言に踏み切ったのも、大学教育を早急に転換しなければならず、そのためには高校教育も変わってもらわねばならず、高校教育が変わるのに障壁となっている大学入試も変えよう、という考えからです。答申を受けて、大学の教育もさらに「質的転換」が加速することでしょう。受験生もそうした覚悟を持って、大学を志望しなければならない時代になっています。