財務省が「小1を40人学級に」、その狙いは……?‐渡辺敦司‐

1クラスの上限を35人とする「35人学級」が実施されている小学1年生について、財務省が「効果がみられない。40人学級に戻すべきだ」と主張していることが、大きな波紋を広げています。文部科学省は猛反発しており、年末の予算編成での大きな焦点になりそうです。ただ、影響はそれだけにとどまりそうにありません。

まず、国の財政や予算の在り方を検討する財政制度等審議会の分科会に提出した資料(外部のPDFにリンク)から、財務省の主張を見てみましょう。それによると、2011(平成23)年度に40人学級から35人学級へと引き下げが行われたにもかかわらず、12(同24)年度のいじめや暴力行為の件数をみると、小学校の中では1年生の割合が少し増えています。そこで財務省は35人学級に「明確な効果があったとは認められず、厳しい財政状況を考えれば、40人学級に戻すべきではないか」と主張しています。

これに対して、下村博文文部科学相は記者会見で「きめ細かな指導という意味では35人学級の方が望ましいというのは、教育関係者が100人が100人みんな言うことだと思います」と述べています。また教育社会学者の内田良・名古屋大学准教授はインターネットの記事で、文科省の統計ではいじめと暴力行為は「認知件数」であって「発生件数」ではなく、数値が増えたということは、認知がきちんとなされているという前向きな意味があると指摘。逆に年間30日以上の欠席という明確な発生件数を意味する不登校が1年生では減っており、内田准教授は「財務省のデータは『35人学級効果あり』を意味することになる」と意義を唱えています。さらに、東京都品川区の保護者がネットで35人学級の存続を求める署名活動を行うなど、反発は広がっています。

ただ、事は35人か40人かということだけにとどまりません。もう一度、財務省の資料に戻りましょう。小1を40人学級に戻すことによって教職員の数を4,000人減らすことができるので、約86億円の予算削減効果があると試算しています。これに、公立学校教員の給与のうち一般公務員より優遇されている分の220億円を削減すれば、2015(平成27)年度予算で文科省が要求している段階的な幼児教育無償化(外部のPDFにリンク)の財源(要求額未定の「事項要求」)に計306億円を充てられると主張しているのです。
2015(平成27)年度の概算要求といえば、文科省は「新たな教職員定数改善計画(案)」として、24(同36)年度までの10年間で計3万1,800人の増員を盛り込んでいます(初年度の15<同27>年度分は2,760人)。しかし財務省が小1の40人学級化を打ち出してきたことで、文科省は35人学級の維持が最優先とならざるを得ず、教員の増員どころではありません。それどころか幼児教育無償化に関しても、40人学級化に代わる財源を文科省が予算のどこかを削減して捻出してこなければならなくなる公算が大きくなります。今回の財務省の提案からは、そんな深謀遠慮も透けて見えます。

こうした攻防の陰で、将来どんな教育を目指し、そのためには先生の数がどれくらい必要なのかという本質的な論議が置き去りにされるとしたら、残念でなりません。


プロフィール


渡辺敦司

著書:学習指導要領「次期改訂」をどうする —検証 教育課程改革—


1964年北海道生まれ。横浜国立大学教育学部卒。1990年、教育専門紙「日本教育新聞」記者となり、文部省、進路指導問題などを担当。1998年よりフリー。初等中等教育を中心に、教育行財政・教育実践の両面から幅広く取材・執筆を続けている。

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