全国学力テスト 重要なのは授業の「質」-渡辺敦司-

8月に結果が発表された今年の全国学力・学習状況調査(全国学力テスト)をめぐっては、結果の公表をどうするかが一部の自治体で話題になっています。もちろん全体的な状況がどうだったのかということも重要ですが、肝心なのは結果の分析をとおして、各学校の授業をどう変えてもらうかです。そうした視点で文部科学省の発表資料(外部のPDFにリンク)を眺めると、気になることがあります。

今回は、2007~10(平成19~22)年度の過去4年間の調査結果で見られた課題に関連した問題も出題しました。その結果、
・立場や根拠を明確にして話し合うことについて、発言をする際に一定の立場に立ってはいるが、根拠を明確にした上で発言をする点に、依然として課題がある(小学校国語B)
・図を観察して数量の関係を理解したり、数量の関係を表現している図を解釈したりすることに課題がある(小学校算数A・B)
・自分の考えを表す際に、根拠を示すことは意識されているが、根拠として取り上げる内容を正しく理解した上で活用する点に課題がある(中学校国語B)
・文章や資料から必要な情報を取り出し、伝えたい事柄や根拠を明確にして自分の考えを書くことについて、説明する際に、文章や資料から必要な情報を取り出してはいるが、それらを用いて伝えたい内容を適切に説明する点に、依然として課題がある(同B)
・図形の性質を証明することについて、着目すべき図形を指摘することは良好であるが、方針を立て、証明を書くことに課題がある(中学校数学A・B)
などとしています。どうやら、きちんと理解したことについて根拠を示しながら説明するのが苦手という課題が、依然としてなかなか解決されていないようです。知識の「活用」が出題されるB問題で課題が目立つのも、それを示している気がします。

こうした課題を解決するためには、ふだんの授業でも一人ひとりが考えたことをクラスメートにもわかりやすく説明したり、みんなで話し合ったりする「言語活動」を十分に行うなど、授業の「質」を変えることが不可欠です。今の学習指導要領を改訂する際に最も心を砕いた部分の一つでもあります。授業時間を増やしたのも、以前削減した学習内容を復活させただけでなく、そうした丁寧な学習活動を行うためでもありました。その点で課題が多かったということは、まだまだ授業改善が不十分だということではないでしょうか。
今回の結果に関しては、平均正答率の低い県が底上げされたことによって全国的な差が縮小したことが特徴です。差が縮まったということは、ほんのわずかな差で全国平均との相対的な差はすぐ高下してしまうということを意味します。そうなると全国平均と比較して上がったか下がったかというのは、必ずしも大きな問題ではなくなるかもしれません。

全国学力テストは、あくまで結果をもとに、各学校や自治体の教育の改善につなげてもらうためのものです。課題があるところには、結果の責任を問うよりも、どう手厚い支援をすれば授業改善が図れるかなど、具体的な手だてを考えてもらうことのほうが、より重要であるような気がします。


プロフィール


渡辺敦司

著書:学習指導要領「次期改訂」をどうする —検証 教育課程改革—


1964年北海道生まれ。横浜国立大学教育学部卒。1990年、教育専門紙「日本教育新聞」記者となり、文部省、進路指導問題などを担当。1998年よりフリー。初等中等教育を中心に、教育行財政・教育実践の両面から幅広く取材・執筆を続けている。

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