「学校いじめ防止基本方針」、重要なのは策定したあと!‐渡辺敦司‐

楽しかった夏休みも、北海道など一部地域では既に終わり、それ以外の地域でも、残り少ないことでしょう。学校が再開すると依然として心配になるのが、いじめなど生徒指導上の問題です。いじめの防止に関しては2013(平成25)年6月に成立した「いじめ防止対策推進法」(施行は同年9月)に基づき、多くの学校では「学校いじめ防止基本方針」が策定されていることと思います。基本方針でどのようなことが求められているかは、以前の記事で紹介しました。しかし基本方針は、一度策定すれば安心というものではありません。それに基づいて「いじめのない学校づくり」が求められるからです。

国立教育政策研究所はこのほど、生徒指導リーフ増刊号「いじめのない学校づくり 2 サイクルで進める生徒指導:点検と見直し」(外部のPDFにリンク)を発行しました。教員向けの専門的なものですが、学校におけるいじめ対策がどうあるべきかの考えを示すものとして、保護者にも参考になりそうです。
以前の記事で紹介した生徒指導リーフ増刊号「いじめのない学校づくり 『学校いじめ防止基本方針』策定Q&A」の中では、いじめの防止について、必要に応じ点検・見直しを行う「サイクル」で取り組む必要性を訴えていました。いじめ防止というと、つい早期にいじめの芽を発見して摘み取ることが最善だと思ってしまいますが、もっと重要なのは「未然防止」であり、いじめの起きにくい学校づくりです。新しいリーフでも「問題が起きていない」だけでなく、「今まで以上に起きにくい」「より良くなっている」ことを基準に成果を判断する必要があると指摘しています。

そうした状態を判定するための指標となるのが、不登校の数や、「学校が楽しい」「みんなで何かをするのは楽しい」「授業に主体的に取り組んでいる」「授業がよくわかる」と考える児童・生徒の数だというのです。いずれも一見いじめとは関係ないように思われますが、調査や研究の成果によると実はこれらがいじめにも大いに関係しているということがわかっています。
2012(平成24)年9月に発行した一連のリーフ(外部のPDFにリンク)でも詳しく解説しているように、「深刻ないじめは、どの学校にも、どのクラスにも、どの子どもにも起こりうる」ものであり、ささいな行為が深刻ないじめに発展しないよう、「居場所づくり」「絆づくり」(ともに外部のPDFにリンク)でいじめの起きにくい学校・学級風土を生み出す必要があります。そのため普段から「魅力ある学校づくり」に取り組んでおけば、いじめはもとより不登校の問題も改善に向かっていき、学力も伸ばせる……というわけです。

私たちは、学校に何か問題が起きると、つい再発防止のための対策を個別に求めてしまいたくなります。しかし、もっと根本的なところから問題を捉え直し、大きな視点で、しかも日常的に対応する必要があるのです。


プロフィール


渡辺敦司

著書:学習指導要領「次期改訂」をどうする —検証 教育課程改革—


1964年北海道生まれ。横浜国立大学教育学部卒。1990年、教育専門紙「日本教育新聞」記者となり、文部省、進路指導問題などを担当。1998年よりフリー。初等中等教育を中心に、教育行財政・教育実践の両面から幅広く取材・執筆を続けている。

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