指導要領、改訂の最大ポイントは「資質・能力」?‐渡辺敦司‐

ほぼ10年に1度行われている学習指導要領の改訂が、早くも現実味を帯びてきました。下村博文文部科学相は、秋にも中央教育審議会に諮問する見通しを示しています。改訂をめぐっては、既に諮問が行われている道徳の教科化に加えて、東京オリンピック・パラリンピックが開かれる2020(平成32)年を「ターゲットイヤー」として小学校高学年で英語を教科化する方針を明言しているほか、高校の日本史必修化や新科目「公共」の創設、領土教育の充実などが課題(外部のPDFにリンク)に挙がっています。ただ、こうした個別の課題とは別に、すべての教科等に関わる重要なポイントがあります。教育内容中心から、「資質・能力」育成へのシフトです。

こうした動きについては以前、文部科学省の有識者会議がまとめた「論点整理」をもとに紹介しました。実はこれと前後して下村文科相は、中教審総会で「今後育成すべき資質・能力」に基づいて各教科等の目標・内容・学習評価をセットにして指導要領の構造を見直すという方針を示していました。委員からも特に異論が出なかったことから、諮問でもこの方針に沿った検討を求めるものと見られます。

「資質・能力」といっても、教育関係者以外はピンと来ないでしょう。端的に言えば先の記事で書いたとおり、「何かを知っていること」よりも「何かをできるようになること」(資質・能力)を重視する教育に、いよいよシフトしていこうということです。極端に言えば、全国学力・学習状況調査(全国学力テスト)で、A問題(主として「知識」に関する問題)とB問題(主として「活用」に関する問題)を両方出題していたのを、B問題中心にしていこうというイメージでしょうか。
もちろん「活用」といっても「知識」を活用するのですから、ある程度の知識は不可欠です。しかし、知識をたくさん覚え、テストで正しい解答が書ければ、それで済むわけではありません。これからは「知識・技能等を実生活の様々な場面に活用する力や、様々な課題解決のための構想を立て実践し評価・改善する力」(全国学力テスト実施要領・B問題の説明)が求められるからです。

目標・内容・学習評価をセットにする、という点も重要です。学習評価ということは、成績をつける際の観点も大幅に変わってこざるを得ません。目標の在り方が変わるのですから評価の在り方も変わるのは当然なのですが、点数化しやすいテストの1点2点の差で成績をつけるようなやり方は、これからは通用しなくなるかもしれません。
大学入試でさえ同様です。いま中央教育審議会では大学入試センター試験に代わる「達成度テスト(発展レベル)」(仮称)の検討が進められていますが、教科型だけでなく「合教科・科目型」や「総合型」の問題を出題しようとしているのも、活用力の育成を重視したいからです。しかも1点刻みによる成績表示をやめ、レベル別に示そうという構想です。

これからの時代は、教科・科目で学んだ力を教科・科目のテストで反復できるだけでは不十分になります。さまざまな教科や教育活動をとおして、どのような資質・能力を身に付けたかまでが問われるのです。


プロフィール


渡辺敦司

著書:学習指導要領「次期改訂」をどうする —検証 教育課程改革—


1964年北海道生まれ。横浜国立大学教育学部卒。1990年、教育専門紙「日本教育新聞」記者となり、文部省、進路指導問題などを担当。1998年よりフリー。初等中等教育を中心に、教育行財政・教育実践の両面から幅広く取材・執筆を続けている。

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