忙しくても、たたかれても……日本の先生はがんばっている!?‐渡辺敦司‐

皆さんは日本の先生を、どのように見ているでしょうか。忙しい中よくやっているという人もいるでしょうし、もうちょっとしっかりしてほしいと思う人もいるでしょう。では国際的に見ると、どうなのでしょう。経済協力開発機構(OECD)は先頃、主に中学校段階の先生を対象にした「国際教員指導環境調査」(TALIS)の結果をまとめ、OECD非公式教育大臣会合に出席するため来日したアンドレア・シュライヒャー教育局長が記者会見を行いました。そこで指摘されていることに、耳を傾けてみましょう。

確かに日本の先生は、国際的に見ても忙しいようです。1週間の労働時間は53.9時間で、参加国平均の38.3時間を15時間以上も上回っています。そのうち授業に使った時間は17.7時間(参加国平均19.3時間)とむしろ少なく、課外活動7.7時間(同2.1時間)、教員としての一般的事務5.5時間(同2.9時間)、その他の業務2.9時間(同2.0時間)などとなっています。先生が授業以外に忙殺されている問題は国内の調査でも指摘されており、「もっと子どもに向き合う時間を増やすべきだ」という指摘もあります。
もちろん、事務作業の時間は効率化すべきでしょう。課外活動については、運動部活動を社会体育に移行したり、指導を外部の人に任せたりするべきだという議論もありますが、シュライヒャー局長は「生徒のために多くの時間を使っているという、日本の強みかもしれない」との見方を示しました。

その反面、調査から浮かび上がってきたのが、先生たちの自信のなさです。学級運営や教科指導など、いずれの側面でも16~54%程度(同70~92%程度)と参加国平均を大きく下回っており、とりわけ「生徒の批判的思考を促す」15.6%(同80.3%)、「生徒に勉強ができると自信を持たせる」17.6%(同85.8%)、「勉強にあまり関心を示さない生徒に動機付けをする」21.9%(同70.0%)など、生徒の主体的な学習参加を促すという点では極端に低くなっています。文部科学省は「高い水準を目指し、実際の達成度より謙虚な自己評価を下している可能性もある」としていますが、「もう一度仕事を選べるとしたら、また教員になりたい」と回答したのは58.1%(同77.6%)にとどまっています。

国内では何かとたたかれる日本の教育や先生ですが、実は国際的には高く評価されています。かつて順位の落ち込みが問題視された「生徒の学習到達度調査」(PISA)にしても「日本は一貫して高い」(シュライヒャー局長)というのが調査当事者の評価です。
東日本大震災の被災地に何度も入っているシュライヒャー局長は、東北の先生たちを「学校だけでなく社会の再構築に当たっており、今後は教育をどのように変えていけばよいのか、どう新しい労働市場を作れるかにも心を砕いている。21世紀の学びや学校の外との協働を図るという点でも、日本は有利だ」と話すとともに、学校現場の裁量を増やし、先生方が職能開発できるような体制づくりを推奨していました。東北で見られたような日本の先生の「よさ」を正当に評価し、さらに伸ばしてもらう視点も必要ではないでしょうか。

プロフィール


渡辺敦司

著書:学習指導要領「次期改訂」をどうする —検証 教育課程改革—


1964年北海道生まれ。横浜国立大学教育学部卒。1990年、教育専門紙「日本教育新聞」記者となり、文部省、進路指導問題などを担当。1998年よりフリー。初等中等教育を中心に、教育行財政・教育実践の両面から幅広く取材・執筆を続けている。

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