学制改革の提言は見送りの公算 教育再生実行会議‐渡辺敦司‐

小学校は6年間、中学校と高校は各3年間という、いわゆる6・3・3制の「学制」について、政府の教育再生実行会議が見直しを検討していることは、ニュースなどでご存じのかたもあるかと思います。そして、その提言がこの7月にもまとまる見通しとなりました。ただし、全国一律の学制改革は見送りになりそうな公算だといいます。
文部科学省幹部が教育関係者に明かしたところによると、6・3・3の区切りが成長の早まる子どもの実態と合わなくなってきたという認識では一致しているものの、国民的な理解をしっかりつくっていくことが大事で、全体を大きく一定の方向に動かすことにはまだまだ議論が必要ではないか、という認識で共有されているといいます。

第2次安倍晋三内閣の発足から約1か月後の2013(平成25)年1月、安倍首相の肝煎りで発足した実行会議は、有識者はもとより安倍首相や下村博文文部科学相(教育再生担当相も兼任)などもメンバーとして、10か月間のうちに4次にわたる提言を出すという精力的な活動を行ってきました。
これまでの提言とそれに対する立法状況(外部のPDFにリンク)を見ていくと、まず、2013(平成25)年2月のいじめに関する第1次提言(外部のPDFにリンク)を受けて同年6月には「いじめ防止対策推進法」が議員立法により国会で成立。各自治体でも、同法に基づく「地方いじめ防止基本方針」の策定や検討が進んでいます。また、教育委員会制度の在り方に関する2013(平成25)年4月の第2次提言(外部のPDFにリンク)は、具体的な論議が文部科学省の中央教育審議会に委ねられたあと、中教審の答申、そして与党合意での内容修正を経て、法律改正案が今通常国会で成立する見通しになっています。大学教育の在り方やグローバル化対応などに関する2013(平成25)年5月の第3次提言(外部のPDFにリンク)は、中教審の「審議まとめ」と法案提出、「英語教育改革実施計画」(外部のPDFにリンク)の公表(同年12月)、スーパーグローバルハイスクール(SGH)の指定(今年3月)などが実現。次に2013(平成25)年10月の大学入試の在り方に関する第4次提言(外部のPDFにリンク)では、中教審で基礎レベル発展レベルの「達成度テスト」(仮称)の検討が進められており、このうち大学入試センター試験に代わる達成度テスト・発展レベルの方向性については今年7月に答申がまとまる見通しとなっています。こうして見ると、まさに「実行」を冠するにふさわしい、政治主導でスピード感を持った教育改革が進められてきたと言えるでしょう。

これに対して、次の課題である学制改革については、第4次提言をまとめた2013(平成25)年10月の第14回会合(外部のPDFにリンク)から7か月余りという、それまでのペースから一転して慎重な審議を重ねています。しかし、それでも戦後教育改革の最大の見直しとも言える学制改革には、そうそう手が付けられるものではないようです。
たとえば学制論議のうち、義務教育の就学年齢を引き下げる(外部のPDFにリンク)こと一つとっても、5歳児の幼児教育を無償化(保育所を含む)するだけで2,610億円、もし3歳児から無償化しようとすると7,840億円が必要になります。私立高校への私学助成(外部のPDFにリンク)が国と地方を合わせて3,250億円、私立大学に対する国の私学助成が3,480億円ですから、そう簡単に実現できるものではないことがわかります。

財源確保も含め、「将来」の学制改革への布石を打つような提案がどう盛り込まれるかが、第5次提言の焦点と言えそうです。


プロフィール


渡辺敦司

著書:学習指導要領「次期改訂」をどうする —検証 教育課程改革—


1964年北海道生まれ。横浜国立大学教育学部卒。1990年、教育専門紙「日本教育新聞」記者となり、文部省、進路指導問題などを担当。1998年よりフリー。初等中等教育を中心に、教育行財政・教育実践の両面から幅広く取材・執筆を続けている。

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