ご注意! 高校部活の体罰 指導者を一律1年間停止に‐渡辺敦司‐

大阪市立高校で部活動の体罰により生徒が自殺した事件(2012<平成24>年12月)をきっかけに、政府の教育再生実行会議(外部のPDFにリンク)が体罰の禁止の徹底を求めるなど、体罰の問題が改めてクローズアップされました。各地の調査(外部のPDFにリンク)を見ると、体罰の把握件数は軒並み減っているようです。しかし、気を緩めるわけにはいきません。そんな中、全国高等学校体育連盟(全国高体連)は更に厳しい「体罰根絶全国共通ルール」(外部のPDFにリンク)を制定し、この7月から適用するとしています。

全国共通ルールは、監督・コーチ・顧問教諭・外部指導者などに適用されるものです。これらの指導者が体罰を行った場合、教育委員会や学校の指導措置・処分などが確定してから1年間、その指導者を高体連主催の大会に出場できないようにし、高体連の役職にも就かせません。体罰の場面は練習中はもとより、ミーティングや寮生活も含みます。何をもって体罰と判断するかは、文部科学省が2013(平成25)年5月に示した「運動部活動での指導のガイドライン」(外部のPDFにリンク)にある「体罰等の許されない指導と考えられるものの例」を参考にするといいます。学校自体が出場停止になるわけではありませんが、大会に出られない指導者は事実上、その部活動の指導者を続けることはできなくなるでしょう。
全国共通ルールを制定する狙いについて全国高体連は「全ての運動部活動指導者、生徒、保護者、そして、社会全体にまで広く周知することにより、運動部活動にかかわる体罰の発生を未然に防止する」と説明しています。裏を返せば、体罰問題はそれだけ根深いとも言えるでしょう。

中・高校時代に運動部活動をしていた保護者の方々にも「昔から体罰はあったし、少しぐらい厳しいほうが鍛えられる」と思わないでもない向きがあるのではないでしょうか。しかし、それこそが体罰の「芽」になります。
全国大学体育連合が実施した調査(外部のPDFにリンク)によると、体罰を振るわれた経験がある学生の6割が「体罰・暴力は必要」と考えており、ない学生では4割を切っているのと比べると多くなっています。しかも、体罰経験のある者のほうが、「将来、運動部活動等のスポーツ指導者になりたい」と回答しています。ただでさえ「体罰の連鎖」が生み出されかねない状況にあるというわけです。意識的に体罰をなくそうと努力しなければ、根絶はできません。
体罰自殺事件を受けて、全国高体連と日本中学校体育連盟(日本中体連)は連名で「体罰根絶宣言」(外部のPDFにリンク)を発表したほか、日本体育協会(日体協)や日本オリンピック委員会(JOC)などとも連名で「スポーツ界における暴力行為根絶宣言」を発表しています。

2020(平成32)年にオリンピック・パラリンピックの東京開催が決まったというのに、いつまでもスポーツにおける体罰禁止が徹底できないとすれば、国内的に問題であるばかりでなく、国際的にも恥ずかしい話です。五輪を機に、体罰を容認しがちな日本の文化風土を変える努力が必要でしょう。何より学校では体罰が昔から法律で禁止されていることを、改めて思い起こす必要があります。


プロフィール


渡辺敦司

著書:学習指導要領「次期改訂」をどうする —検証 教育課程改革—


1964年北海道生まれ。横浜国立大学教育学部卒。1990年、教育専門紙「日本教育新聞」記者となり、文部省、進路指導問題などを担当。1998年よりフリー。初等中等教育を中心に、教育行財政・教育実践の両面から幅広く取材・執筆を続けている。

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