「安西中教審」で教育はどう変わる-渡辺敦司-
文部科学大臣の諮問機関である中央教育審議会の新会長に、副会長だった安西祐一郎・日本学術振興会理事長が選ばれました。日本商工会議所会頭に就任した三村明夫前会長(新日鉄住金相談役名誉会長)の辞任に伴うもので、5年ぶりに学者出身者が会長となりました。中教審といえば、幼児教育から大学・大学院、生涯学習・スポーツまで日本の教育の方向性を議論する戦後以来の重要な審議会であり、審議の動向には会長の意向も強く反映されます。安西会長の就任で、中教審はどうなるのでしょうか。
安西会長の専門は認知科学ですが、慶応義塾の塾長(慶応義塾大学長)まで務めた大学経営のプロであるとともに、中教審では大学分科会の分科会長などとして大学改革論議をリードしてきました。企業と大学が連携して取り組む教育プロジェクト「Future Skills Project(フューチャー・スキルズ・プロジェクト=FSP)研究会」(事務局・ベネッセコーポレーション)の座長としても活躍しています。グローバル化や全入時代を迎えて「大学改革は待ったなし」というのが分科会長当時の口癖で、なかなか動かない大学現場に業を煮やす様子がしばしば見受けられました。
大学改革を進めるためにも大学入試、さらには高校教育も変えなければならないという強い認識を持っており、それが大学教育の「質的転換」答申(2012<平成24>年8月)に結実するとともに、大学入試と高校・大学の一体改革を進める文科相の諮問につながりました。諮問を受けて設置された高大接続特別部会の部会長も務めています。さらに、政権交代後に発足した教育再生実行会議で2013(平成25)年6月から高大接続・大学入試の在り方の検討が始まると、その席に呼ばれて中教審の審議状況を説明し、同会議がその延長線上で「達成度テスト(仮称)」(外部のPDFにリンク)を提言する流れを事実上つくりました。そんな安西氏が会長に就任したことで、大学改革はもとより「達成度テスト」を含めた多面的・総合的な大学入試改革の具体的な審議が加速することは間違いありません。
もちろん安西新会長の関心事は、大学や入試に限りません。文部科学省の「学びのイノベーション推進協議会」の座長も務めているとおり、小・中学校を含めた教育の革新に強い意欲を各所で表明しています。
中教審総会での就任あいさつでも、「教育は日本で学ぶ人たち一人ひとりが幸せな人生を送れるようにすることだ」と強調しました。そのうえで、
(1)世界が多極化する荒波の中で日本が生きていくためには、主体的に答えのない問題に最適解を見いだす力が必要で、それを身に付けさせる教育に転換しなければならない
(2)生産人口が減少する時代には、一人ひとりが支え合いながら課題に向き合わなければならず、そのためにも受け身の教育から能動的な教育に転換しなければならない
との考えを示しました。近く予想される学習指導要領の改訂論議にも、そうした意向が反映されることでしょう。