大学の教室、「国際化」が当たり前に!? 東大で試行‐渡辺敦司‐

東京大学が国際的な大規模公開オンライン講座(MOOC=ムーク)の一つである「コーセラ(Coursera)」に参加したことは以前お伝えしましたが、このほど別のムーク実施団体である米国のNPO「エデックス(edX)」に参加することを決めました。エデックスに参加するのは京都大学に次いで国内2校目であり、その点では大きなニュースとは言えないのですが、注目されるのは、これを機にエデックスの出資者であるハーバード大学とマサチューセッツ工科大学(MIT)と連携した教育を行うこと、その中で先に紹介した「反転授業」の試行を行うことです。単に東大の一部で先進的に取り組むというだけでなく、これからの大学教育の在り方を揺さぶる可能性を秘めているようです。

3大学により今秋エデックスに提供される日本に関する連携講座シリーズ「ビジュアライジング・ジャパン」(日本の可視化)は、『敗北を抱きしめて』(岩波書店)で知られるジョン・ダワーMIT教授らが米国から講座を配信するほか、東大からは吉見俊哉・大学院情報学環教授(副学長)が4週間ずつ2コースの「ビジュアライジング・ポストウォー・トーキョー」(戦後東京の可視化)を配信します。そして吉見教授の講座を、東大の学部生向けにオンライン学習と対面授業を組み合わせた反転授業として活用します。使用するのは、もちろん英語です。
受講する学生は事前にオンラインで講義映像を視聴し、わからないことは自分で調べたり、掲示板で議論したりして基本的な知識を理解しておきます。そのうえで対面授業で内容を深め、さらに、チームごとに資料収集やフィールドワークを行い、ウェブ上にフォト・ドキュメンタリーを制作します。対面授業で知識を学び、学んだ知識の応用は復習に任せるという通常の授業の形を「反転」させることから、反転授業と呼ばれるわけです。
扱う内容は
(1)米軍による占領 
(2)天皇・皇室のイメージ 
(3)オリンピック都市の建設 
(4)混沌と多様性の街新宿
先頃ソチ冬季五輪が終わったところですが、過去の五輪が東京の都市づくりに与えた影響を追うことで、同じく五輪を開催したソウルや北京、さらには今後開催されるリオデジャネイロなどの変遷も見抜く力がつくなど、発展性を持つ学習です。

ポイントは、東大がこの講座を単独ではなく「MITとハーバード大との共同事業を考えるファーストステップ(第1段階)としたい」(吉見教授)と位置付けていることです。研究分野では海外との連携は既に当たり前ですが、教育分野でも海外との連携を進めていこうとする取り組みであり、海外と連携した授業が今後、日常の教室に入ってくることを意味します。そのために宮川繁MIT教授をオンライン教育担当の特任教授(兼任)として招きました。
大学教育のグローバル化は、留学だけにとどまりません。オンライン講座をとおして、英語による授業を「国際標準」で行うことが、東大のようなトップクラス大学では当たり前になる時代が迫っているのです。


プロフィール


渡辺敦司

著書:学習指導要領「次期改訂」をどうする —検証 教育課程改革—


1964年北海道生まれ。横浜国立大学教育学部卒。1990年、教育専門紙「日本教育新聞」記者となり、文部省、進路指導問題などを担当。1998年よりフリー。初等中等教育を中心に、教育行財政・教育実践の両面から幅広く取材・執筆を続けている。

子育て・教育Q&A