広域通信制高校、ニーズはあるが課題も‐渡辺敦司‐

高校の課程には全日制・定時制・通信制の3種類がありますが、通信制のうち学校のある都道府県だけでなく他県に住む者も対象とするものを「広域通信制(広域の通信制の課程)」と呼んでいます。文部科学省は一部の広域通信制高校に不適切な実態があるとして、ガイドラインを作成したり都道府県の関与を強めたりするなどの対策を講じたい考えです。

広域通信制高校としてはNHK学園が古くから知られていますが、最近では自由な時間に学びたい生徒や不登校生などニーズの多様化に対応するため、学校法人立(私立)はもとより、構造改革特区だけに認められている株式会社立(株立)の学校も増えています。文科省は2012(平成24)年9月、広域通信制の中には民間の「サポート校」と混然一体となった運営が行われていたり、添削指導がマークシート方式で行われていたりするなど不適切な事例があるとして、調査結果をもとに自治体に対して適切な運営を促すよう通知したことがあります。それでも課題のある学校が今なお存在しているとして、2013(平成25)年8~9月に改めて調査を行いました。対象となった広域通信制高校は県立1校、私立65校、株立21校でした。

通信制教育の中心である添削指導について見ると、8割以上を選択式にしている学校が私立で6%(4校)、株立で5%(1校)とごく一部ながらあったほか、レポートの採点しかしていなかったり、正解を記載するだけだったりしている高校が私立で49%(32校)、株立で33%(7校)を占めていました。通信制の添削指導は全日制や定時制の授業に当たるものですから、本来は一人ひとりの記述をもとに、きめ細かな解説などが求められるはずです。ただ株立学校に関しては2011(平成23)年12月の前回調査に比べると、8割以上を記述式にしている学校が40%から57%に増えるなど、12(同24)年通知の効果も一定は見られるようです。
また、添削指導を補うために義務付けられている面接指導(スクーリング)について、株立学校であっても特区の区域内で行う必要がありますが、区域外にあるサポート校などの施設で実施している株立学校が57%(12校)を占めていました。
文科省が一部の広域通信制高校を問題視しているのは、あくまで高校と名乗る以上は、通常の高校と同じような教育の「質の保証」を行うべきだと考えているからです。そのため高校教育の質保証の在り方を検討している中央教育審議会の高等学校部会がまとめる予定の報告(外部のPDFにリンク)に「広域通信制の在り方見直し」を盛り込みたい考えです。

ただし通信制高校の中には、あくまで既存の学校システムに適応できない生徒の実態に合わせた指導方法を取るため、あえて学校教育法に縛られないサポート校での指導を中心にする株立学校も少なくありません。高校卒業が公的資格である以上、一定の質が保証されるものでなければならないのは当然ですが、通常の学校では中退を余儀なくされ、就職でも不利となるような若者の成長を促し、卒業に結び付けるためにはどのような態勢が必要なのかという視点も忘れてはならないでしょう。


プロフィール


渡辺敦司

著書:学習指導要領「次期改訂」をどうする —検証 教育課程改革—


1964年北海道生まれ。横浜国立大学教育学部卒。1990年、教育専門紙「日本教育新聞」記者となり、文部省、進路指導問題などを担当。1998年よりフリー。初等中等教育を中心に、教育行財政・教育実践の両面から幅広く取材・執筆を続けている。

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