「かっぽう着のリケジョ」に見る若手研究者の育て方‐渡辺敦司‐
簡単な作業であらゆる細胞になる万能細胞の一種「STAP細胞」を作製して世界を驚かせた独立行政法人理化学研究所(理研)の小保方(おぼかた)晴子・研究ユニットリーダー(30)は、かっぽう着姿の「リケジョ」(理系女子)としても注目を浴びました。そんな小保方さんの経歴を見ていると、個人的に優れた資質・能力の上に努力を重ねたということはもちろん、近年進められてきた教育・科学技術改革がうまく後押しした側面もあったようです。
小保方さんが2002(平成14)年に早稲田大学理工学部応用化学科(当時)に入学したのは、AO入試の一種である「創成入試」(同)の1期生としてでした。AO入試は学力不問入試などと批判されることも多いのですが、やり方によっては「とんがった学生」(学部時代の指導教員だった常田聡教授)を選抜できる入試改革であることの証明でもあるでしょう。
再生医療の研究にもかかわらず、小保方さんの学位は博士(工学)です。2006(平成18)年に大学院に進学する時、病気で子宮をなくした人に光を当てたいと考えたと言います。研究の世界では学問領域を超えた「学際的」な研究は当たり前です。大学進学でも受験科目だけ勉強していればよいのではなく、幅広い知識や教養を身に付けておくことが求められます。
当時ちょうど医学部のない早大は東京女子医科大学との連携を進めており、小保方さんも早大の修士課程に所属しながら東京女子医大の研究室にも出入りしました。博士課程に進んだ2008(平成20)年には両大学が共同で設立した「東京女子医科大学・早稲田大学連携先端生命医科学研究教育施設」(TWIns)を拠点にしています。これは一つの大学だけですべてを抱えるのではなく、「機能別分化」によって特色を絞りながらもほかの大学とお互いの強みを生かして連携・協力を図っていくという、大学改革の流れに乗った対応とも言えます。
博士課程進学と同時に日本学術振興会の特別研究員となったのは、若手研究者を支援する国の政策によるものです。さらに今回の成果に直接つながるハーバード大学への留学は、国際的に卓越した教育研究拠点を作ろうとする文科省の「グローバルCOEプログラム」(当時)に採択された早大「『実践的化学知』教育研究拠点」の支援によるものでした。
2013(平成25)年からは理研のユニットリーダーに抜擢(ばってき)されるのですが、研究室のスタッフ5人は全員女性です。これは単に女性の登用を進めようというだけでなく、性別や国籍などの多様化を進めることで研究にも新しい発想と成果を生み出そうという「ダイバーシティー(多様性)」という考え方が反映していると言えます。
過去に世界的な科学雑誌『ネイチャー』に論文を投稿した際に「細胞生物学の歴史をばかにしている」とまで酷評されるなど「泣き明かした夜も数知れない」(小保方さん)窮地に対して、そのつど国内外のトップ科学者から支援があったのは「人間力の高さがあったからではないか」と常田教授は評しています。これから研究者を目指すリケジョはもとより男子学生にとっても、小保方さんの軌跡から学ぶことは多いのではないでしょうか。