変わる大学教育、求められるのは「主体性」‐渡辺敦司‐

政府の教育再生実行会議が提言した大学入試の「大改革」が大学や高校の教育を変えるためのものであることは、以前の記事で解説しました。では、変わる大学の教育では何を目指し、そこで学ぶ学生にはどういった態度が求められるのでしょうか。

青山学院、上智など在京5大学と、資生堂、野村證券など6企業でつくる「Future Skills Project(FSP)研究会」(事務局・ベネッセコーポレーション)のことは、産学協同で人材育成を行う試みとして以前にも紹介しました。研究会の座長は中央教育審議会の副会長で、高大接続特別部会長や大学分科会長を兼任している安西祐一郎・日本学術振興会理事長(慶応義塾学事顧問)。入試をはじめとする大学改革のキーパーソンです。3回目のシンポジウムが昨年、東京・駿河台の明治大学で開催されました。今回のテーマ「主体性が学生を変える 学生が社会を変える」に、進むべき大学教育の在り方が込められています。
安西座長は、経済協力開発機構(OECD)の生徒の学習到達度調査(PISA)やPIAAC(国際成人力調査)で日本が好成績を収めてきた一方、足元の高校生や大学生の自主的な勉強時間が少ないだけでなく、諸外国に比べても受け身の態度が目立ち、目標が明確でないまま目先の受験や就職活動に追われながらも将来への不安を感じているというデータを紹介しながら、「自分から何かしたい、だからこういうことを勉強しよう、というものがないのは、おかしいのではないか」と問題提起しました。
大卒者の就職先では人付き合いや幅広い社会知識が不可欠な業種の割合が拡大しており、経済界も求める能力のトップに「コミュニケーション能力」を挙げています。しかもヒト・モノ・カネ・情報のスピードが世界規模で速まるグローバル社会にあっては、

▽自ら考え、行動し、背景の違う人間と協力できるチームワーク力
▽お互いを理解し、世界に存在する諸問題を発見・解決するための合理的・倫理的・開放的・臨機応変的コミュニケーションスキル
▽深い思慮と戦略を持って調整する能力
▽学び続けることのできる力
▽他者を幸福にできる仕事を自分で得る力

……などが重要になると言います。そのうえで安西座長は、「一番大事なのは主体性。主体性を育む学習環境が必要になる」と強調しました。

FSP実践講座で、大学に入ったばかりの1年生にいきなり「競合ブランドから首位を奪い、No.1を盤石化するためのブランド育成戦略を提案しなさい」といった企業の新入社員でも難儀するような課題を与えるのも、「学びへのスイッチ」を入れるためです。自分には何が足りないか、何を学ぶべきかが明確になり、大学4年間を主体的に過ごそうとするようになると言います。「唯一の正解がなく、考えに考え抜かないと競争に勝ち残っていけない」(関根輝・アステラス製薬人事部長)実社会では、「数学などの能力が高くても、社会で生きていく力が足りない」(宮之原隆・日本オラクル人事本部シニアディレクター)ようでは通用しません。これからの大学では、そのために勉強することが求められるのです。


プロフィール


渡辺敦司

著書:学習指導要領「次期改訂」をどうする —検証 教育課程改革—


1964年北海道生まれ。横浜国立大学教育学部卒。1990年、教育専門紙「日本教育新聞」記者となり、文部省、進路指導問題などを担当。1998年よりフリー。初等中等教育を中心に、教育行財政・教育実践の両面から幅広く取材・執筆を続けている。

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