先生の数、増やすべきか減らすべきか‐渡辺敦司‐

文部科学省が来年度概算要求の中で「教師力・学校力向上7か年計画」を立てて公立小・中学校などの教職員数を増やそうとしていることは、前に紹介しました。これに対して要求を査定する財務省が反対の見解を示すと、さっそく下村博文文部科学大臣が反論する、といった応酬がありました。いよいよ12月に入り、予算折衝が本格化していきます。この問題をどう考えればよいのでしょうか。

財務省の見解(外部のPDFにリンク)は、10月28日に行われた「財政制度等審議会」の財政制度分科会に提出した資料の中で示されました。主な理由は、二つです。
その一つは、少子化による効果です。平成に入った1989(平成元)年度と2012(平成24)年度を比較すると、児童・生徒数が33%減っているのに、教職員数は8%減にとどまっており、そのため児童・生徒40人当たりの教職員数は2.05人から2.84人へと39%も増えている。今後も少子化は続くため、2031(平成43)年には40人当たり3.01人になることが見込まれる。だから定数改善は行う必要はない……というものです。教職員の数は基本的に学級数を基に算定されるため、1クラスが35人でも25人でも担任は1人で変わりませんから、こういうことが起きるわけです。教員1人当たりで見ても、子どもの数は小学校で2010(平成22)年の18.4人から13(同25)年は17.4人に、18(同30)年には17.1人へと、中学校も14.4人→13.9人→13.5人へと低下する見通しで、経済規模の近いG5(ほかに英国・米国・ドイツ・フランス)の中ではむしろ少ないほうだ(2010<同22>年の平均は小学校17.6人、中学校15.1人)、と主張しています。

もう一つの理由は、先生の数を増やしても効果がないという主張です。少人数学級にしたからといって、すぐに全国学力・学習状況調査(全国学力テスト)の成績が上がるわけではないことを文科省も認めていることは、冒頭でも紹介しました。そのため文科省は自治体が少人数学級かティームティーチング(TT)・習熟度別学級を選べるようにする要求を行っているのですが、これに対しても「小学校でTTに、中学校で習熟度別学級に取り組んだ学校の平均正答率が上がったというなら、少人数学級に取り組んだ学校の正答率は悪化したということではないのか」「少人数学級に取り組んだ学校で学習への積極的な姿勢が見られたというのなら、TTや習熟度別学習は学習への姿勢を悪化させるということではないのか」と、文科省の主張を逆手に取って反論しています。
これに対して下村文科相は、翌29日の記者会見で「まったく木を見て森を見ずの、目先の財政的な議論だ。この国が将来どうすべきかという国家ビジョンとか理念がない」と批判。「これから経済成長に資するためにも、人に対する投資として必要不可欠だ」と定数増の必要性を重ねて訴えました。

教員定数を増やすことは、それだけ財政負担が重くなることも確かです。ただ、教職員の仕事が現在「いかに複雑化し、多様化・高度化して、さまざまな教育課題があるか」を考慮すべきだという下村文科相の見方に対して、保護者の方々はどう思われるでしょうか。


プロフィール


渡辺敦司

著書:学習指導要領「次期改訂」をどうする —検証 教育課程改革—


1964年北海道生まれ。横浜国立大学教育学部卒。1990年、教育専門紙「日本教育新聞」記者となり、文部省、進路指導問題などを担当。1998年よりフリー。初等中等教育を中心に、教育行財政・教育実践の両面から幅広く取材・執筆を続けている。

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