体罰しそうになったら「怒りコントロール」 神奈川県教委が示す‐渡辺敦司‐

文部科学省が学校での体罰をめぐって新しい基準を示したことや、スポーツ指導での「コーチング」を推奨していることは、これまで紹介してきました。ただ、抽象的な指摘ばかりではなかなか体罰がなくならないのも現実です。そんな中、神奈川県教育委員会が作成した「体罰防止ガイドライン」と、その別冊である「校内研修ツール」は事例も織り交ぜながら、非常に具体的なものになっています。もちろん先生向けのものですが、同県教委ではPTAにも読んでほしいとしており、学校でどのような指導が行われるべきかを理解するうえで参考になりそうです。

体罰しそうになったら「怒りコントロール」 神奈川県教委が示す‐渡辺敦司‐


ガイドラインでは、そもそも子どもは成長の段階で迷ったり悩んだりしながら、時に間違った行動をしたり、社会的規範を乱したりするものだと確認したうえで、「間違った行為に対し『ダメなものはダメ』と明確に指導すると同時に、『こうすることが良い』と伝えることは極めて大切な指導です」と強調しています。先生方にとっても頭ではわかっていながら、実際にはなかなかできないことかもしれません。ガイドラインでは続けて、「『言っても聞かないから』と判断し、何も伝えないことは、教職員や指導者として責任を放棄していることにほかなりません」と注意を促しています。
体罰を行ってしまう要因として、▽児童・生徒を信頼せず、成長を信じていない▽自分の指導力を過信し、一人で児童・生徒を指導しようと抱え込んでいる▽「問題の原因は一つしかない」というような硬直的な思考をしている▽他の人に援助を求めるのは自分の能力を疑われると考えている……などを指摘。そのうえで、改めて「体罰は、児童・生徒に深い心の傷を残し、保護者・地域との信頼関係を著しく損なう等多大な悪影響を与えます」と断言しています。

校内研修ツールでは、体罰の根絶に向けたチェックシートや事例を基にしたワークシートなどを載せ、具体的に学べるようにしているのですが、目を引くのが「アンガーマネジメント」です。日頃の教育をきちんと行っている先生でも思わずカッとなって体罰を起こしてしまいがちなことから、一つの方法として紹介しています。
そこでは「怒りの感情は、人間にとって必要な感情の一つで、その感情そのものには、問題はありません」としたうえで、むしろ怒りやイライラの感情をコントロールする必要があるのだと説いています。

具体的な方法として、
(1)「大丈夫」「成長するチャンス」「感情のコントロールができている」等魔法の呪文を用意しましょう
(2)呼吸を大きくゆっくりしてみましょう。深呼吸しましょう
(3)頭の中で6秒カウントしてみましょう(6秒ルール)
(4)生徒との距離をとりましょう。状況によって、その場を離れましょう
(5)怒りの感情をふるい落とすように大きく身体を動かしてみましょう
……を示し、自分なりのコントロール方法を考えるよう促しています。学校だけでなく、さまざまな場面で応用できそうですね。


プロフィール


渡辺敦司

著書:学習指導要領「次期改訂」をどうする —検証 教育課程改革—


1964年北海道生まれ。横浜国立大学教育学部卒。1990年、教育専門紙「日本教育新聞」記者となり、文部省、進路指導問題などを担当。1998年よりフリー。初等中等教育を中心に、教育行財政・教育実践の両面から幅広く取材・執筆を続けている。

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