いじめ「増加」のワケは……?

夏休みが明けて、もしかしたら中には、学校に行きたがらないお子さんもいらっしゃるかもしれません。先月発表された文部科学省の「問題行動調査」(外部のPDFにリンク)でも、不登校の児童・生徒は減っているものの、いじめの件数が増加に転じたといいますから、心配にもなりますよね。ただ、こうした調査の結果を見る時、少し注意が必要です。
文科省の発表資料を見ると、いじめ件数の経年変化に関しては、1985(昭和60)~93(平成5)年度、94(同6)~2005(同17)年度、06(同18)年度以降という、三つの表に分かれています。これらを一緒にしたグラフもあるのですが、それぞれの間には、丁寧にも波線が引かれています。というのも、三つの時期で「いじめ」の定義が違っているため、単純な比較ができないからです。

1993(平成5)年度までのいじめの定義は、
「(1)自分より弱いものに対して一方的に、(2)身体的・心理的な攻撃を継続的に加え、(3)相手が深刻な苦痛を感じているものであって、学校としてその事実(関係児童生徒、いじめの内容等)を確認しているもの。なお、起こった場所は学校の内外を問わないもの」でした。
それが、94(平成6)年度以降は、
「(1)自分より弱いものに対して一方的に、(2)身体的・心理的な攻撃を継続的に加え、(3)相手が深刻な苦痛を感じているもの。なお、起こった場所は学校の内外を問わない」に変わりました。
一見、読み飛ばしてしまいそうな違いですが、「学校としてその事実を確認しているもの」という一文が削除されています。当時、頻発したいじめ自殺事件などで、学校側がいじめの事実を把握していなかったことを反省しての、定義変更でした。

さらに06(平成18)年度から(外部のPDFにリンク)は、「当該児童生徒が、一定の人間関係のある者から、心理的・物理的な攻撃を受けたことにより、精神的な苦痛を感じているもの。なお、起こった場所は学校の内外を問わない」とされました。これも当時、児童が自殺した理由をいじめとして報告していなかった教育委員会があったことが発覚したのを受けての措置でした。
またこの時から、いじめの件数を、「発生件数」から「認知件数」へと呼び方を変えています。個々の行為がいじめに当たるかどうかの判断は、「表面的・形式的に行うことなく、いじめられた児童生徒の立場に立って行うものとする」とされたからです。

今回の調査では、06(平成18)年度以降、初めて認知件数が増えました。ただ、これは、いじめ自体が増えたというより、去年の文科省通知で、全学校でのアンケート実施などを含めた「総点検」が行われた結果だとみられます。つまり、より丁寧な把握が行われたため、いじめの「認知」も増えたというわけです。
しかし本当に重要なのは、いじめが「認知」されたあと、学校がどう対応するかでしょう。さらに言えば、いじめが発生しにくい、あるいは、発生しても深刻化する前に問題が解決するような、普段からの人間関係づくりが肝要です。調査結果を、個々の学校がそうした取り組みをも総点検するきっかけとして、受け止めたいものです。


プロフィール


渡辺敦司

著書:学習指導要領「次期改訂」をどうする —検証 教育課程改革—


1964年北海道生まれ。横浜国立大学教育学部卒。1990年、教育専門紙「日本教育新聞」記者となり、文部省、進路指導問題などを担当。1998年よりフリー。初等中等教育を中心に、教育行財政・教育実践の両面から幅広く取材・執筆を続けている。

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