「教育振興基本計画」って……何だっけ?

2月に発足した第6期中央教育審議会(中教審、文部科学相の諮問機関)では、審議の課題の一つに、「教育振興基本計画」を挙げています。そういえば、3年前に初めて計画が策定されるまでは大騒ぎされたものですが、それ以降は、教育界の中でさえ、たまに耳にするくらいでした。そもそも振興計画とは、何だったのでしょうか。

国が振興計画を策定すべきことは、教育基本法(2006<平成18>年12月全面改正)に定められています。「今後10年間を通じて目指すべき教育の姿を明らかにする」「今後5年間に取り組むべき施策を総合的・計画的に推進する」(現振興計画)といいますから、国の教育行政の大本ということになるでしょう。しかも、教育基本法では、地方自治体に対しても、国の計画を参考にして独自の基本計画を設けなさいとしています。実際、お住まいの県でも、「○○県教育振興基本計画」(名称はさまざまです)といったような計画があることでしょう。このように、国内のさまざまな教育に大きな影響を与える、根本的な計画なのです……いえ、そのはずでした。
振興計画の構想が持ち上がったのは、2000(平成12)年に設けられた「教育改革国民会議」(首相の諮問機関)の時でした。そこでの提言では、「教育振興基本計画と教育基本法」となっているように、教育への投資の充実を主眼とした振興計画を策定することが、最大の関心事でした。国の教育の根本的な法律である教育基本法で策定を義務づけ、しかも計画は閣議決定されるのだから、相当な教育費の増額が期待できる……関係者は、そう踏んだようです。実際、教育基本法の改正に反対、または慎重だった人たちの中にも、振興計画があったために、賛成や容認に回ることがありました。

ところが、実際に策定された計画はといえば、当時の記事でご紹介したように、関係者にとっても不十分なものでした。数値目標が掲げられたものにしても、たとえば、早期に2,000か所以上にすると掲げた「認定こども園」は、昨年4月現在でようやく500か所を超え、いまだに都市部では待機児童問題が深刻なことは、ご存じの通りです。2011(平成23)年度の政府予算案に盛り込まれた小学1年生の35人学級は、現計画には「教職員定数の在り方」を検討するとか、「教職員配置の適正化」とあるだけでしたから、計画の功績というより、政権交代によるものというべきでしょう。高校の授業料無償化という、3,900億円を超える莫大な投資にしても、計画の趣旨に沿ってというわけではなさそうです。

もちろん、そうした限界を重々承知しているからこそ、文科省や中教審は、計画期間がまだ2年残っている段階で、1年前倒しで中間的なフォローアップに取り掛かるとともに、次期計画についても検討しようとしたわけです。
断続的に続く不況のなかで、教育費に苦しむ家庭は増えていますし、学力の問題も心配です。ぜひ実効ある計画となるよう、英知を集めてほしいものです。


プロフィール


渡辺敦司

著書:学習指導要領「次期改訂」をどうする —検証 教育課程改革—


1964年北海道生まれ。横浜国立大学教育学部卒。1990年、教育専門紙「日本教育新聞」記者となり、文部省、進路指導問題などを担当。1998年よりフリー。初等中等教育を中心に、教育行財政・教育実践の両面から幅広く取材・執筆を続けている。

子育て・教育Q&A