大学の門戸は広いけれど……

間もなく全国ほとんどの学校で、夏休みが終わることと思います。来春に大学受験を控えるご家庭では、お子さんの勉強は計画通り進みましたでしょうか? そんな折に冷水を浴びせるような話で恐縮ですが、ただ大学に進学するだけで、将来への道が広がるとは限りません。そんな状況を、文部科学省の「学校基本調査」などから、2回にわたって見ていきましょう。最初は、大学への「入り口」です。

大学が、えり好みしなければどこかには入れる「全入時代」が来る、と言われて久しくなりました。今春の状況を見ると、浪人を含めて大学(学部、以下同じ)を志願した高校(通信制を除く)と中等教育学校後期課程の卒業者は約68万人だったのに対して、実際の入学者(通信制や海外の高校の卒業生、社会人などを含む)は約61万9,000人。入学者数を志願者数で割った「収容率」は91.0%で、前年度と同じでした。収容率が100%になるのが全入状態とされていますから、当分、厳密な意味での全入時代は来そうにありません。
しかし高校生にとって大学は、確実に門戸が広がっています。今春の全日制・定時制卒業生のうち、現役で大学に進学した者は47.8%で、前年度に比べ0.5ポイント増加しました。浪人を含めた大学進学率は、初めて50%を超えた前年度を0.7ポイント上回る50.9%になっています。

こうした背景には、大学側が門戸を広げていることがあるのは、言うまでもありません。主な大学進学年齢である「18歳人口」は少子化で減り続けているのに、大学の数は前年度比5校増の778校。5年前と比べても、50校余り増えています。
その一方で、長引く不況を反映してか、確実に入学できる近場の大学を目指す≪安定志向≫の傾向が高校生の間で強まっているようです。私学に限っての調査ですが、文科省の外郭団体である日本私立学校振興・共済事業団によると、今春の私大入学者数は約48万9,000人で、前年度より約1万人増えています。それまで定員割れも多かった地方の小・中規模校などで、定員充足率が上がったといいます。つまり、そうした大学が、進学率上昇の受け皿となっているわけです。

確かに数字の上からは、いまだ大学は「全入」ではありませんし、浪人生も前年度並みの8万6,000人を数えています。ただ、すそ野が広がれば、中堅クラスの大学にしても入りやすさが進行していることは、否定できないでしょう。上位クラスにしても、浪人生が30万人近くいた20年前に比べれば、ずっと競争が緩和されていることは間違いありません。
高校の先生方の間からは、「生徒がそこそこ入れそうな大学で満足してしまって、上を目指さない」という嘆きが、最近よく聞かれます。志望大学に向かってがんばるのは大切なことですが、本当にその大学でよいのか、安易な選択をしていないか、といったことを冷静に考えてみることも、これだけ門戸が広がった中では、必要かもしれません。


プロフィール


渡辺敦司

著書:学習指導要領「次期改訂」をどうする —検証 教育課程改革—


1964年北海道生まれ。横浜国立大学教育学部卒。1990年、教育専門紙「日本教育新聞」記者となり、文部省、進路指導問題などを担当。1998年よりフリー。初等中等教育を中心に、教育行財政・教育実践の両面から幅広く取材・執筆を続けている。

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