格差乗り越える「効果のある学校」とは!?

子どもの学力は親の経済力に大きく左右されるものの、肝心なのは家庭での生活態度や親子の接し方にある……。そんな実態を明らかにした文部科学省の委託研究調査(2008<平成20>年度全国学力・学習状況調査=全国学力テスト=の追加分析調査)のことは、以前の記事でお知らせしました。ここでは同じ調査からもう一つ、家庭の格差を乗り越えて学力向上を図った「効果のある学校」について紹介しましょう。

「効果のある学校」がどういうものかは、委託研究調査を請け負ったお茶の水女子大学の研究グループが以前、ベネッセ教育研究開発センターと共同でまとめた調査研究報告書に、詳しく説明されています。簡単に言えば、経済的に恵まれた家庭の子どもだけでなく、保護者の年収や学歴が低かったり、塾に通っていなかったりする子どもも含めて、学力の向上に成功している学校のことです。裏を返せば、比較的有利な環境にある家庭の子どもが多いのに、期待されるほど学力が上がっていない「効果のない学校」というものも存在するわけです。

今回の委託研究調査は、お茶大グループが、ベネッセとの共同研究の成果を応用して行ったものです。それによると、収入が少ないなどの家庭が多いのに「効果のある学校」と認められる学校の子どもの特徴として、
▽家で計画的に予習・復習をしている
▽国語や算数はもとより「総合的な学習の時間」の勉強も好き
▽自分にはよいところがあると思っている
▽きまりを守る
▽人の役に立つ人間になりたいと思っている
……といったように「圧倒的にポジティブな学校生活を送っている」というのです。つまり、そうした方向に子どもを仕向けている学校では、たとえどんな家庭環境の子どもが通ってこようとも、学力を向上させることができるのです。
先日発表された今年度の全国学力テストの結果を見ても、就学援助を受けている子どもの割合が高い学校は、全体的に見れば平均正答率が低いものの、中には正答率が高い学校も存在することが明らかになっています。そうした学校が「効果のある学校」というわけです。

お茶大・ベネッセ共同研究の報告書によると、効果のある学校では、教師と子どもの間に信頼関係があり、ポジティブな学級の中で、学習習慣や学習意欲がはぐくまれていました。なお、調査対象は全国7県の42校と少なかったのですが、首都圏の県には「効果のない学校」が多かったのに対して、逆に「全国学力テストでトップクラスの成績を収めている県」では、農村部でも「効果のある学校」が多かったといいます。
肝心なのは、都市部・農村部を問わず、全国で学校を「効果のある学校」にすることです。経済格差の解消が国政上の大きな課題となっていますが、そのためにも、学力格差を乗り越える学校を増やすような教育政策を求めたいものです。

プロフィール


渡辺敦司

著書:学習指導要領「次期改訂」をどうする —検証 教育課程改革—


1964年北海道生まれ。横浜国立大学教育学部卒。1990年、教育専門紙「日本教育新聞」記者となり、文部省、進路指導問題などを担当。1998年よりフリー。初等中等教育を中心に、教育行財政・教育実践の両面から幅広く取材・執筆を続けている。

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