中学校の「選択教科」はなくなるの?

中学生のお子さまをお持ちのかたは、今の中学校に「選択教科」というものがあることをご存じかと思います。生徒が興味を持ったり、もっと勉強したいと思ったりした教科の授業を、一定の範囲の中から選べるものです。ところが、先に示された新しい学習指導要領では、選択教科に関して「事実上廃止」「原則廃止」されると報道されています。中学校の選択教科は、なくなってしまうのでしょうか。

答えを先に言ってしまいますと、「残ってはいるが、実際にはほとんどの学校でなくなる」ということになるでしょうか。新指導要領の文言を見ると、「各学校においては、選択教科を開設し、生徒に履修させることができる」とあります。一見、選択教科は今後も続くようにも見えます。
しかし、ここが指導要領の面倒なところですが、「~ことができる」という表現がポイントなのです。ちなみに現行の指導要領を見てみると、「各学校においては……選択教科の指導計画を作成するものとする」となっています。つまり、「~するものとする」という表現によって今はどの学校も選択教科を実施しなければならないのですが、新しい指導要領の下では、やりたい学校はやってもよい、というふうに変わるということなのです。

もう一つ注目すべきは、どの教科に何時間の授業を充てるべきかを定めた、「学校教育法施行規則」です。年間の総授業時間は現行の980時間から1,015時間へと35時間(週1時間相当)増やしたのですが、そこには「総合的な学習の時間」はあっても、「選択教科」の文言が消えています。新指導要領の基となる中央教育審議会の答申(今年1月)には「標準授業時数の枠外で」と、はっきり書いています。さらにもう一度、新指導要領を見ると、選択教科は「生徒の負担過重となることのないようにしなければならない」というただし書きさえありますので、選択教科を続けようという学校には相当の工夫が必要になります。
現実を考えても、新しい学習指導要領の下では全員に「確かな学力」を身に付けさせることが各学校に求められていると言えます。高校入試にも対応しなければなりません。主要5教科をはじめとした授業の充実が第一になることは確実で、実際には無理をして選択教科を開設し続ける学校は多くないのではないか、と見られます。

振り返ってみれば、中学校の選択教科が現在のような形になったのは今の前の指導要領〔1989(平成元)年告示、1993~2001(同5~13)年度実施〕からでした。そこには、多様化する生徒の興味・関心を伸ばし、選択能力を高めるとともに、中学校に対しても、どの教科を何時間開設するかなど、特色あるカリキュラムを編成させる狙いがありました。しかし新しい指導要領では、むしろ全生徒に共通に学ばせることを重視したうえで、補充学習や発展学習を行うことを求めています。個性重視・特色重視という今の指導要領の理念は実質的に見直された、と言ってよいようです。

プロフィール


渡辺敦司

著書:学習指導要領「次期改訂」をどうする —検証 教育課程改革—


1964年北海道生まれ。横浜国立大学教育学部卒。1990年、教育専門紙「日本教育新聞」記者となり、文部省、進路指導問題などを担当。1998年よりフリー。初等中等教育を中心に、教育行財政・教育実践の両面から幅広く取材・執筆を続けている。

子育て・教育Q&A