「教科書に漫画」、なぜ?

新学期が始まって1カ月。お子さんたちも新しい教科書に慣れたころでしょう。
ところで教科書と言えば、先頃文部科学省が発表した2006(平成18)年度の高校教科書検定結果(2008(平成20)年度からの使用分、主に1年生用)で、漫画を多用した教科書が話題となりました。
「教科書に漫画? だから学力が低下するんじゃないの」と顔をしかめるかたもいらっしゃるかと思いますが、こうした試みが出てくる背景には何があるのでしょうか。

話題になったのは、大阪の出版社が申請した「数学II」の教科書です。
申請本では約180ページ中、約70ページで漫画を使っていました。
数学嫌いの高校生がタイムスリップして問題を解き、理解できたら現代に戻れる、というストーリーです。その内容も、「なんだ、おまえこんなものもできないのか」「まだ問題も見てませんよ」「どうだ、できまい。はっ、はっ、は、できまい!!」といった調子でした。
検定では「学習内容との関連が不明確」「教師役が何を意図してこのような発言をしているのか理解しがたい」などの検定意見がつき、結果的に漫画部分は20ページほどに減りました。
内容も、「この計算ができますか?」「整式のわり算ですね」など、いたって穏当な会話になっています。

ところで、こうした大胆な試みには、高校ならではの事情があることにも注意しなければなりません。
地区ごとにどの教科書を採択するかが決められる小・中学校とは違って、高校では学校ごとに、生徒や先生に合わせた教科書を選択することができます。
受験を経て入学する高校では、学校によって生徒の学力にも大きな幅があるのも現実です。
なかには小・中学校の学習内容につまずいたまま入学したため勉強する意欲がもてない、という生徒が多い学校も少なくありません。そうした生徒にも何とか教科書を開いてもらおうと考えたのが、漫画教科書だったというわけです。

実際、この出版社でも、漫画教科書は3種類を発行する「数学II」のうちの1種類だけでした。
もともと生徒のレベルに合わせた教科書を複数発行する必要があり、あくまでも数学が苦手な生徒を対象とした一つの試みだったのです。
結果的には漫画部分が大幅に削られましたが、学習内容との関連が問題にされたためであって、文科省も漫画を使うこと自体を否定しているわけではありません。

一方で、内容の高度な教科書が増えていることにも注目されます。
学習指導要領を超えた「発展的な学習内容」を掲載した教科書があったのは数学や理科など計7種目(科目)で、そのページ数は全体の2%になります(2002〔平成14〕年度検定時は1.7%)。
文科省が想定する上限の2割にはまだまだ届きませんが、各社とも様子を見ながら徐々に内容を充実させた教科書を発行していく方向にあることは確かです。

学力差が大きい生徒にも一様に対応しなければならない小・中学校の教科書と違って、高校の教科書は今後、これが同じ高校生に向けたものかと思うくらいに多様化していくことは間違いありません。

なお、今回検定対象となった教科書については、4月26日から東京・江東区の「教科書研究センター」で公開されており、検定前の申請本との比較もできるようになっています(7月31日まで)。
また、6、7月には福島や鳥取など全国7カ所でも公開されるとともに、検定資料を文科省ホームページで公表することになっています。


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プロフィール


渡辺敦司

著書:学習指導要領「次期改訂」をどうする —検証 教育課程改革—


1964年北海道生まれ。横浜国立大学教育学部卒。1990年、教育専門紙「日本教育新聞」記者となり、文部省、進路指導問題などを担当。1998年よりフリー。初等中等教育を中心に、教育行財政・教育実践の両面から幅広く取材・執筆を続けている。

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