私大は既に脱「1点刻み」 国公立は「難関」推薦・AO拡大?‐斎藤剛史‐

文部科学省が進めている大学入試改革の狙いは、「1点刻み」でペーパーテストの学力を争う入試から、思考力や学習意欲などを「多面的・総合的に評価する」入試への転換であることは、当コーナーでも紹介してきました。実際の大学入試は、どうなっているのでしょうか。文科省の2015(平成27)年度「国公私立大学入学者選抜実施状況調査」から、実態を見てみましょう。

私大は既に脱「1点刻み」 国公立は「難関」推薦・AO拡大?‐斎藤剛史‐


調査結果によると、2015(平成27)年度の大学入学者全体のうち、学力検査による「一般入試」で入学した者の割合は、国立大学が84.6%、公立大学が73.2%、私立大学が49.0%となっています。つまり大学入試を改革すると言っても、「1点刻み」を争うような入試が成立しているのは国公立大学や一部の私立大学など、というのが実情のようです。

一方、推薦・AO入試による入学者の割合を見ると、次のようになっています。


AO入試
  2013(平成25)年度 2014(平成26)年度 2015(平成27)年度
国立大学 2.6% 2.6% 2.7%
公立大学 1.9% 2.0% 2.2%
私立大学 10.3% 10.3% 10.5%


推薦入試
  2013(平成25)年度 2014(平成26)年度 2015(平成27)年度
国立大学 12.3% 12.2% 12.1%
公立大学 24.1% 24.1% 24.0%
私立大学 40.3% 39.7% 40.1%


推薦・AO入試による入学者の割合は、国公立大学のAO入試で微増しているものの、大きな変化はありません。私立大学の推薦・AO入試による入学者の割合が横ばいであることからもわかるように、推薦入試やAO入試によるそれぞれの入学者の割合はほぼ定着し、このほかに帰国子女入試や社会人入試などによる入学者がわずかにいるというのが、現在の大学入試の実態といえます。
ところが、先に当コーナーで紹介したように、国公立大学の2016(平成28)年度入試では、東京大学や京都大学をはじめとして、推薦・AO入試を実施する大学が過去最多となることが見込まれています。さらに国立大学協会は、国立大学全体で推薦・AO入試による入学者の割合を30%に増やすという目標も掲げています。

これらの動きは、学力のほかに、思考力・判断力・表現力なども含めて「多面的・総合的に評価する」という大学入試改革を先取りするものです。国公立大学を中心とした推薦・AO入試の増加により、2020(平成32)年度を待たずに大学の受験地図は大きく変化することも予想されます。
ただし、私立大学も含めて、これから増えると思われる推薦・AO入試は、何らかの形で学力も評価する可能性が高いことから、受験者の立場からすると出願のハードルが高くなるうえに、学力検査なしで受験できるというメリットがないと指摘する向きもあります。進路指導関係者の間には、複雑になる推薦・AO入試よりも、一般入試に力を入れたほうがよいという見方もあるようです。

学力や能力を丁寧に見ることになる推薦・AO入試に対して、受験生はどう反応していくのか。その動向は、ある意味、今後の大学改革の成否を占う試金石になるかもしれません。


プロフィール


斎藤剛史

1958年茨城県生まれ。法政大学法学部卒。日本教育新聞社に入社、教育行政取材班チーフ、「週刊教育資料」編集部長などを経て、1998年よりフリー。現在、「内外教育」(時事通信社)、「月刊高校教育」(学事出版)など教育雑誌を中心に取材・執筆活動中。

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