女子の浪人経験は無駄じゃない?

大学受験は、かつて「受験戦争」と言われていました。志願者に比べて入学定員が圧倒的に少なく、浪人が当たり前だっただけでなく、不合格で大学進学を諦める生徒も少なくありませんでした。しかし今や昔に比べ、大学には現役で入りやすくなっています。そんな中、浪人を選択するという経験が、その後の人生にどう影響するのでしょうか。

全体の浪人率は40%近くから10%台に低下

戦後のベビーブームと高度経済成長を反映して、大学・短大への志願者が急増したにもかかわらず、大学の整備が追い付かず、1970年代から90年代まで、おおむね3人に1人が浪人する状況が続きました。浪人率が40%に迫る年度もあったほどです。

しかし1990年代を境に、主な大学入学年齢である18歳人口が減少し、一方で進学熱が高まった大学志願者を取り込もうと、大学の新設や、短大からの転換が相次ぎます。文部科学省の文部科学統計要覧によると、2014年度の大学入学者のうち、浪人生(13年3月以前の高校卒業者)の占める割合は13.7%でした。7人に1人も浪人していない計算になります。

大学の総志願者数が総入学定員を下回り、えり好みしなければどこかの大学に入れる「大学全入時代」が到来したと言われて、およそ10年が経過しました。しかし実際には、難関大学などを目指して浪人を選択する受験生が、今も一定数存在するわけです。

では、大学に入りやすくなった90年代以降も、浪人経験は報われたのか……。そんな研究結果を、大東文化大学の香川めい講師が、9月に大正大学(東京都豊島区)で開催された日本教育社会学会の大会で発表しました。

就職でも「バリキャリ志向」

研究で使ったデータは、1955年以来7回にわたって研究者が共同して実施してきた「社会階層と社会移動(SSM)調査」です。65歳以下の大卒男性(大学院進学者を除く)の現役入学率は、1967~90年に高校を卒業した人で64.4%でしたが、1991~2012年の高校卒では76.1%にまで高まっています。一方、大卒女性は各84.0%、84.9%と、それほど変わりません。昔から「女子は浪人させない」という意識が強かったためです。

90年代以前も、それ以降も、浪人すれば国公立大学や有名私大などの「銘柄校」に進学する割合が、現役よりも高まります。その結果、卒業後に就職してからの所得も高くなります。香川講師は、それが出身大学によるものか、それとも浪人経験自体が効果を生んでいるのかを統計的に分析しました。すると男性は、大学ランクによる所得増の効果は確認できたものの、浪人経験の効果は確認できませんでした。一方、女性の場合は、大学ランクの影響を除いても、所得増の効果が確認できたといいます。

こうした結果について香川講師は、浪人を選択した女性には「バリキャリ(バリバリのキャリアウーマン)志向」があるとみています。逆境にめげない進路選択は、その後の大学での学びや、就職に際しても、自力で道を切り開こうという意欲や努力につながるというわけです。

大学受験という経験は、合否だけがすべてではないはずです。どのような結果が出ても、その後の人生で自己実現を図れるよう、前向きな応援をしてあげたいものです。

(筆者:渡辺敦司)

※日本教育社会学会
http://www.gakkai.ne.jp/jses/conference/

プロフィール


渡辺敦司

著書:学習指導要領「次期改訂」をどうする —検証 教育課程改革—


1964年北海道生まれ。横浜国立大学教育学部卒。1990年、教育専門紙「日本教育新聞」記者となり、文部省、進路指導問題などを担当。1998年よりフリー。初等中等教育を中心に、教育行財政・教育実践の両面から幅広く取材・執筆を続けている。

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