大学入試、「1点刻み」のままでいいの?

2020年度の大学入試改革(入学は21年度)が、徐々に迫ってきています。
まずは順調にスタートできるか見守りたいところですが、改革はこれで終わりではないということも忘れてはなりません。
新しい学習指導要領で学んだ高校生が受験する24年度(同25年度、対象は現在の中学1年生)との《2段階》 で進めることが、当初から想定されていたためです。
ただ、そうした一連の改革でも、まだ足りないかもしれません。当初目指していた改革の中には、依然として手をつけられていない課題があるからです。

今の改革は「不完全燃焼」

「今の高大接続改革は、不完全燃焼だと感じています」……。中央教育審議会の専門委員などを務めた大阪大学高等教育・入試研究開発センターの川嶋太津夫センター長は、先頃行われた大学入試センター主催シンポジウムの基調講演で、こう指摘しました。

入試改革ばかりが注目されますが、高校教育・大学教育・入学者選抜を一体的に改革しよう、というが、高大接続改革の狙いです。しかも元々は、大学の教育を社会からの期待に応えられるよう変える必要がある、という大学関係者の危機感に端を発したものでした。

ただ、高大接続改革の論議、とりわけ入試改革をめぐっては、▽中教審「高大接続特別部会」(2012年9月~14年10月)▽文部科学省「高大接続システム改革会議」(15年3月~16年3月)▽文科省改革推進本部・高大接続改革チーム「大学入学希望者学力評価テスト(仮称)」検討・準備グループ(16年4月~18年3月)……など検討場所を替えながら、現実的な方向を探ってきました。
その結果、「大学入学共通テスト」をはじめとする現行の体制に落ち着いたわけですが、積み残されたり先送りされたりした課題も多々あります。共通テストの複数回実施、CBT(コンピューター活用型テスト)の導入などです。

AIに負けないために

基調講演で川嶋センター長が指摘したのは、「入学定員の存在」です。現在の日本の入試では、募集定員が厳格なため、定員を上回る受験生が集まった場合、誰かを落とさなければなりません。

しかし高大接続改革の理念から言えば、その大学のアドミッション・ポリシー(入学者受入れの方針、AP)にかなう者を判定して入学させる、というのが趣旨だったはずです。APにかなう者も、不合格にせざるを得ません。
一方で、APを満足する者が少なかったとしても、定員を満たせない場合は、合格させているのが現状です。つまり、どちらにしてもAPが機能していない、というわけです。

ここには定員管理と並んで、高大接続改革論議が積み残した問題が潜んでいます。「『1点刻み』の客観性にとらわれた評価から脱」する(14年12月の中教審答申)という論点です。そもそもテストの点数には、測りたい能力との「誤差」が含まれているというのが、「テスト理論」の教えるところです。だからこそ入試改革では、個別大学がAPに基づいた多面的・総合的な評価を行うことが求められています。

折しも、人工知能(AI)に負けない人材の育成が求められています。
知識丸覚えで1点刻みのテストなら、AIでもかなりの成績をたたき出せることは、国立情報学研究所の「東ロボくん」プロジェクトが実証済みです。人間でしかできない強みを発揮させるには、一連の高大接続改革が一段落したとしても、将来的には「高大接続改革2.0」(川嶋センター長)にバージョンアップさせる必要があるのです。

(筆者:渡辺敦司)

※大学入試センター・シンポジウム2019
https://www.dnc.ac.jp/research/nyugakusha_chyosasitsu/symposium.html

※高大接続改革(文部科学省ホームページ)
http://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/koudai/index.htm

プロフィール


渡辺敦司

著書:学習指導要領「次期改訂」をどうする —検証 教育課程改革—


1964年北海道生まれ。横浜国立大学教育学部卒。1990年、教育専門紙「日本教育新聞」記者となり、文部省、進路指導問題などを担当。1998年よりフリー。初等中等教育を中心に、教育行財政・教育実践の両面から幅広く取材・執筆を続けている。

お子さまに関するお悩みを持つ
保護者のかたへ

  • がんばっているのに成績が伸びない
  • 反抗期の子どもの接し方に悩んでいる
  • 自発的に勉強をやってくれない

このようなお悩みを持つ保護者のかたは多いのではないでしょうか?

\そんな保護者のかたにおすすめなのが/
まなびの手帳ロゴ ベネッセ教育情報サイト公式アプリ 教育情報まなびの手帳

お子さまの年齢、地域、時期別に最適な教育情報を配信しています!

そのほかにも、学習タイプ診断や無料動画など、アプリ限定のサービスが満載です。

ぜひ一度チェックしてみてください。

子育て・教育Q&A