国立大の「法人統合」で学部再編も進む!?

文部科学省の検討会議が、「国立大学の一法人複数大学制」について最終まとめを公表しました。今通常国会での法改正を経て、2020年度には検討中の4グループのうち名古屋大学と岐阜大学が法人統合した「国立大学法人 東海国立大学機構」が誕生する見通しです。法人を統合しても各大学は残ると言いますから、進学を目指す人にとってはあまり関係ないと思うかもしれません。しかし長期的には、さまざまな影響が出てくる可能性もあります。

経営基盤の強化を目指し

一法人複数制は、かつて民主党政権の下で打ち出された文科省「大学改革実行プラン 」(2012年6月)の中で「アンブレラ方式」として提案されたことがあります。今回は、中央教育審議会が昨年11月の答申の中で、改めて検討を求めました。
審議中の段階で、名大・岐阜大の他、静岡大学・浜松医科大学(2021年度予定)、小樽商科大学・帯広畜産大学・北見工業大学(2022年度予定)、奈良教育大学・奈良女子大学(同)と、法人統合に名乗りを挙げるグループが相次いだため、文科省が具体的な制度設計を急ぎました。

ところで国立大学は2004年に、文科省直轄から「国立大学法人」に移行しています。同省が細かい予算配分を決めるのでなく、一括で「運営費交付金」が渡される一方、その使い道を自由に決められるなど、各大学の財政や運営の裁量が大幅に拡大しました。ただし、一つの国立大学が一つの法人となることが原則とされたため、外部からはあまり変化がわからなかったことでしょう。

一方で、世界に打って出たり、地方の活性化に貢献したりするには、伸び悩む運営費交付金では足りず、独自財源の確保も難しいといった問題も起こっています。そこで、経営基盤を強化する方策として法人統合のアイデアが浮上しました。企業における持ち株会社制度(ホールディングス)のような形式を思い浮かべればよいでしょう。
しかも、法人統合されても個々の国立大学(キャンパス)は維持されます 。これまで培ってきた個々の国立大学の「ブランド力」を生かしつつ経営基盤を強化するのが、法人統合の狙いだからです。

理事長の意向が強まる

ここまで読んで、「何だ、やっぱり変わらないんじゃないか」と思うかもしれません。しかし経営基盤の強化とは、教育・研究全般について、理事長(法人の長)を中心に、法人全体の意向が強くなることを意味します。傘下の国立大学も、各大学の学長が法人経営に参画するとはいえ、法人が決めた方針に従って大学の運営を行うことになります。
運営費交付金や独自財源などの資源を有効に活用するためには、教育・研究組織の再編も課題になってくることでしょう。それは、時代の変化に対応するためでもあります。折しも人工知能(AI)などの技術革新に伴って、これまでのように文系・理系を分けるような発想にも見直し が迫られています。

法人統合によって、学部・学科の再編など、個々の国立大学でも改革が加速することでしょう。また各大学が、国際化を目指したり、地域貢献に特化したりするなど、特色を鮮明にする動きが強まることが予想されます。法人統合しない国立大学も、うかうかしていられません。一法人複数大学制の導入は、国立大学はもとより大学界全体に大きな影響を及ぼすことは必至です。進学希望者にとっても、目が離せません。

(筆者:渡辺敦司)

※国立大学の一法人複数大学制度等に関する調査検討会議(最終まとめ)
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/koutou/092/gaiyou/1413271.htm

※中教審答申「2040年に向けた高等教育のグランドデザイン」
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo0/toushin/1411360.htm

プロフィール


渡辺敦司

著書:学習指導要領「次期改訂」をどうする —検証 教育課程改革—


1964年北海道生まれ。横浜国立大学教育学部卒。1990年、教育専門紙「日本教育新聞」記者となり、文部省、進路指導問題などを担当。1998年よりフリー。初等中等教育を中心に、教育行財政・教育実践の両面から幅広く取材・執筆を続けている。

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