「放っておく勇気」もサポートのひとつ。自学自習を見守る保護者の関わり方

子どもが自分で学ぶ内容を決める「自学自習」型の宿題。自由度が高いからこそ、戸惑うお子さまを見て「なんとかサポートしてあげたい」と思うこともあるのではないでしょうか。

一方で「どんなアドバイスをすればいいの?」「手伝いすぎたら意味がなくなってしまうのでは?」と悩むこともあるかもしれません。子どもの主体性を損なわず、楽しく取り組めるようにサポートをするには、どのような関わり方が大切なのでしょうか。

20年近くの公立小学校教員経験を持つベネッセ教育総合研究所 教育イノベーションセンターの庄子寛之主席研究員に聞きました。

この記事のポイント

    内容にこだわりすぎない

    内容にこだわりすぎない

    自学自習型の宿題は、「自分で学びをつくる練習」です。お子さまが自分自身で考え、決めることこそが重要です。

    何に取り組もうかと悩むお子さまを前に、テーマや内容をアドバイスしたくなることもあるかもしれません。でも保護者が「あれはどう?」「これはどう?」と提案しすぎてしまうと、せっかくの「自分で考える時間」を奪ってしまうことになりかねません。

    大切なのは、子どもが「自分で考え、学ぶことを楽しめるように支える」ことです。「何をやるか」「どうやるか」をアドバイスするよりも、「やってみよう」と思える気持ちを支えることを意識してみてください。

    そのためには、内容にこだわりすぎないことが大切です。「えっ」と思われるかたもいるかもしれませんが、自学自習型の宿題では、立派なテーマに取り組むことを求められているわけではありません。アニメでもスポーツでもマンガでも、どんなことでもテーマになります。学校の勉強と直接つながらなくてもいいんです。どんな内容でも「自分で決めてやってみる」ことが考える練習になります。

    口出しせず、放っておく勇気も必要

    時には「放っておく」ことも支援のひとつです。ついつい気になって、アドバイスしたくなることもあるかと思います。でも、口出しが多くなると、険悪になってしまうこともあるものです。言われたことを渋々やるだけになってしまったり、そこまで興味のないことを調べて写すだけの「考えない時間」をつくってしまったりすることだってあるかもしれません。

    お子さまを信じて、任せて、見守る。
    どんな小さなことでも、自分で考えて取り組めば、そこに学びが生まれます。自学自習は子どもの宿題であって、親の宿題ではないことを忘れないようにしたいですね。

    もしお子さまが本当に困って「どうすればいい?」と相談してきた時は、その時こそ一緒に考えるチャンスです。この後で詳しくお話ししますね。

    小さなことこそ「認める」「ほめる」を繰り返す

    小さなことこそ「認める」「ほめる」を繰り返す

    子どもは「自分で学びたいことを考えて取り組む」ことには、まだまだ不慣れです。よくよく考えれば、大人だって難しいものですよね。

    だからこそ、小さなことでも「認める」「ほめる」をくり返してあげてほしいと思います。

    量が少なくても書けた、提出できた、昨日より多く書けた、丁寧に書けた、自分で考えて書けた――。
    大人から見たら、当たり前に思えることでも、子どもにとっては大きな一歩です。「できたね」「今日もやったね」と言葉にして伝えてあげることで、自信がついて、次もやってみようという気持ちが生まれます。

    どんな小さなことでも「できたね」と言えることを、たくさん見つけてあげてください。

    子どもと一緒に考える

    子どもと一緒に考える

    「何をすればいいかわからない」とお子さまが相談してきた時は、一緒に考えてあげれば大丈夫です。

    ただし、「あれがいいんじゃない?」「これをやってみたら?」と保護者が主導して教えるのではなく、一緒に考えて並走する姿勢を大切にしてほしいと思います。

    テーマを考える時に意識してほしいのは、次の2つです。

    まず一つは、ハードルを下げること。
    お子さまは無意識のうちに「ちゃんとしたものを出さなければいけない」と苦しんでいるかもしれません。「立派なことでなくてもいい」「無理に授業内容とつなげなくてもいい」と気持ちを軽くしてあげてください。

    もう一つは、興味を引き出す声かけをすること。
    好きなことに取り組んでいいと言われても、漠然としすぎていて逆に迷ってしまうこともあるものです。「○○のこと好きだよね」「△△って面白いよね」など、お子さまの興味を引き出すさりげない声かけをしてあげてください。考えるきっかけが生まれるはずです。

    お子さまと一緒に考えるといっても、最終的に決めるのはお子さま自身です。保護者が誘導してしまうと、それはもう「自学自習」ではなくなってしまいます。お子さまが決めたことを「いいね」「おもしろそうだね」といってあげることも大切なサポートです。

    逆効果サポートに注意

    逆効果サポートに注意

    保護者の方はみなさん、お子さまのためを思ってサポートをされていると思います。「もういいや」と思っているのであれば、アドバイスなんてしませんよね。

    でも、ときにはよかれと思ってのアドバイスが子どものやる気をそいでしまうこともあります。たとえば、こんな行動には注意が必要です。

    ● 「あれしたら?」「これしたら?」と口を出しすぎる

    ● 子どもが聞く前に先回りして準備する

    お子さまが自分自身で考えることを奪ってしまいます。

    ● 「○○ちゃんはこうしているらしいよ」と伝える

    参考になればいいなとの思いだったとしても、お子さまは「比べられた」と感じてしまうことがあります。

    ● 「まだ終わらないの?」「早くやりなさい」と急かす

    子どもにはそれぞれのペースがあります。自学自習型の宿題だと、場合によっては夢中になって没頭していることもあります。急かさず「がんばっているね」と見守ってあげてください。

    アドバイスをすると、それを受け入れてほしくなってしまうものです。アドバイスをしたのに、聞かない。結果、怒る。お子さまもさらにやる気をそがれる。こんな悪循環が一番避けたい形です。

    最初からうまくサポートできなくて当然。保護者も自分を責めないで

    最初からうまくサポートできなくて当然。保護者も自分を責めないで

    ここまでで「自分は口出ししすぎなのかも...」と自分を責めてしまっている保護者のかたもいらっしゃるかもしれません。でも、わかっていてもつい口を出してしまうのは、どんな親にでもあることです。こうやって話をしている私だって、つい我が子に口出ししてしまうこともあります。

    口出しをしてしまうのは、その裏側にお子さまを思う気持ちがあるからです。そのため「また口出ししすぎちゃったな」と思っても、自分を責めすぎないでください。子どもが最初から完璧にできないように、保護者だって最初からうまくサポートできるわけではありません。

    大事なのは、うまくいかなかった時に、次はどう関わればいいかを考えることです。次はどうすればいいかと振り返り、改善していくことが大切。叱ってしまったら、「次は言い方を変えてみよう」でいいんです。

    自学自習は、子どもだけでなく「親も一緒に学ぶ時間」だと思います。保護者のかたも「どう関わるか」を少しずつ試しながら、関わり方のバランスを見つけていけばいいと思います。焦らなくて大丈夫。きっとそのうち「我が家のベストバランス」が見えてくると思いますよ。そのプロセスをも楽しんでほしいですね。

    まとめ & 実践 TIPS

    頭ではわかっていても、ついつい口を出してしまうこともあるもの。少しずつ、改善しながらバランスを見つけていけばいいという庄子先生のお話に救われたような思いがしたかたも多いのではないでしょうか。焦らず、あたたかく、お子さまが自分で学ぶ力を伸ばしていく過程を、やさしく見守っていけるといいですね。

    プロフィール


    庄子寛之

    元公立小学校指導教諭。大学院にて臨床心理学について学び、道徳教育や人を動かす心理を専門とする。「先生の先生」として、ベネッセの最新データを使いながら教育委員会や学校向けに研修を行ったり、保護者や一般向けに子育て講演を行ったりしている。研修・講演は500回以上。講師として直接指導した教育関係者は1万5000人に及ぶ。全国の学校が休校していた2020年のコロナ禍に、これからの教育について考えるオンラインイベントを企画し、世界中の教育関係者を2000名以上集め、話題を呼ぶ。子ども教育のプロとして、NHK「おはよう日本」や朝日新聞、毎日新聞などのメディアなどにも取り上げられ、一躍有名になる。また、ラクロスの指導者としての顔も持ち、東京学芸大学女子ラクロス部監督、U-21女子日本代表監督、U-19女子日本代表監督を歴任。「教師」×「指導者」として、一貫して「自分で行動できる子ども・選手」の育成を実践している。著書に『自分で考えて学ぶ子に育つ声かけの正解』(ダイヤモンド社)など多数。

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