きれいにまとめなくてOK! 自学自習ノートづくりで本当に大切なこと

子どもが自分で学ぶ内容を決める「自学自習」型の宿題。自学ノートにまとめて提出する学校も多く見られます。

とはいえ、自由にまとめられるものだからこそ「どう書けばいいんだろう」と迷ってしまうこともあるものですよね。保護者のかたも、お子さまのノートを見て「もっと上手にまとめたほうがいいのでは?」「もう少しきれいに書けたら…」と思ったことがあるかもしれません。

しかし、20年近くの公立小学校教員経験を持つベネッセ教育総合研究所 教育イノベーションセンターの庄子寛之主席研究員は「自学ノートはきれいにまとめることにこだわりすぎる必要はない」と指摘します。「ノートはこうあるべき」と思い込んでしまうことが、かえって子どもの「学ぶ力」を伸ばすチャンスを狭めてしまうこともあるのだとか。

自学自習の効果を高めるために、どんなノートづくりが大切なのかを聞きました。

この記事のポイント

    ノートを埋めることが目的ではない

    ノートを埋めることが目的ではない

    「ノートは余白を残さず、きれいに埋めなくては」と思い込んでいませんか? 自学ノートをまとめる時は、その必要はありません。余白が多くても、まったく問題ありません。

    「余白を埋めなきゃ」「たくさん書かないと」と思いすぎると、ノートを埋めることがいつしか目的になってしまいます。子どもも「埋めるために書く」ようになってしまいがちです。すると、インターネットで調べたことをそのまま写したり、言葉を少し置き換えたりするだけの内容になることもあります。

    文字をたくさん書いているように見えても、ただ写しているだけでは「考えていない時間」ということ。自学自習では「自分で考える時間」が何よりも大切なのに、それがなくなってしまいます。それでは、子どももつまらないし、学びも深まりません。

    自学自習型の宿題の目的は、「自分で考え、やってみること」。自分で学びをつくることです。ノートをきれいにまとめることではありません。他者にわかりやすく伝えようとか、きれいにまとめようとすることも大切ですが、そこばかりにとらわれると、本末転倒になってしまいます。「まずは、何でもいいから書いてみる」ことからスタートすればOK。きれいにまとめる技術は、ノートに書くことに慣れていく中で徐々に身に付いていけば大丈夫です。

    わかりやすくまとめるよりも、まず書く

    わかりやすくまとめるよりも、まず書く

    自学ノートのお手本を見て「こんなふうにまとめなければいけない」と思い込んでいませんか?たとえばお手本には、こんな特徴がよく見られます。

    3部構成
     - はじめ(序論)
     - なか(本論)
     - おわり(結論)

    図やイラストを用いて、わかりやすく伝える

    もちろん、このようにまとめられれば理想的です。でも、最初からそのレベルを目指す必要はないですし、そもそも難しいはずです。毎日お手本のような仕上がりを目指していたら、息切れもしてしまうでしょう。そうなると、自分で決められることで楽しく学べるはずの自学自習が、お子さまにとって苦しいノルマになってしまう可能性だってあります。

    私も教員時代、しっかり調べよう、きれいにまとめようとしている生徒が途中で息切れしてしまう姿をたくさん見てきました。だからこそ「まず書いてみる」ことが何より大事です。

    まずはできる範囲で手を動かしてみて提出する。そこからスタートします。やったことをメモしておくだけでも十分です。うまく書けなくても、書いているうちに「もう少し調べてみようかな」「ここを変えてみよう」と思えることも出てくるようになるでしょう。そのプロセスこそが、「自分で学ぶ力」を育てます。

    あれこれ考えすぎずに、まず書いてみる。そこを大切にしてほしいですね。

    1回で評価するのではなく、長い目で変化を見る

    自学自習型の宿題は、保護者の時代にはなかったものです。保護者のかたも、どうフォローしてあげればいいかわからなくて当然です。だからこそ、どんな内容でもお子さまが自分で決めて「書けている」だけでまずは満点です。「今日も自分で決めてできたね」と声をかけてあげましょう。

    たとえ「え、これだけ?」と思っても、1回の出来だけで判断しないであげてください。まずは取り組んでみること、続けてみることが大切です。続けるうちに、子どもは少しずつ変化します。最初は「やったことを書くだけ」だった子が、「どうやったか」「どう思ったか」まで書けるようになることもあります。長い目で、積み重ねの中での変化のプロセスを温かく見守ってあげてほしいと思います。

    「きれいな自学ノート」が評価されるわけではない

    「きれいな自学ノート」が評価されるわけではない

    「そうは言っても、とりあえず書いただけのノートでは、先生の印象が悪くなるのでは?」と疑問に思うかたもいるかもしれません。でも、そんな心配はいりません。

    最近は「びっしり埋めなさい」「きれいに書きなさい」という指導がスタンダードではなくなってきています。
    特に、自学自習のように「子どもが自分で考えて進める」ことを目的とした宿題では、先生自身が「自主性」と「考えるプロセス」を重視しています。自学自習型の宿題を課しているということは、「きれいに書くこと」ではなく「自分で考えること」に重きを置いている先生がほとんどです。

    私自身、教員時代に子どもたちのノートを見ていて感じたのは、見た目のきれいさよりも、どんなことを考え、どんな気持ちで取り組んでいるかが伝わるノートのほうがずっと印象に残るということです。

    少し雑でも、「自分の言葉で書いているな」「自分で考えているな」と感じられるノートには、子どもの思考の跡がしっかり残っています。そういう「考えた跡」が見られることこそが大切です。

    そのため「とりあえず書けているだけでもいいのかな?」という心配は無用です。ノートを埋めたか、きれいにまとめたかどうかよりも、自分で考え、やってみたというプロセスこそが、評価されるポイントです。

    まとめ & 実践 TIPS

    自学自習ノートは、「きれいにまとめる練習」ではなく、「考える練習」。
    書いた量が少なくても、内容が簡単でも、「自分で決めて手を動かした」ことが、考える練習になるとの言葉を心強く感じたかたも多いのではないでしょうか。
    長い目でお子さまの「考える力」が少しずつ深まっていく様子を見守っていけるといいですね。

    プロフィール


    庄子寛之

    元公立小学校指導教諭。大学院にて臨床心理学について学び、道徳教育や人を動かす心理を専門とする。「先生の先生」として、ベネッセの最新データを使いながら教育委員会や学校向けに研修を行ったり、保護者や一般向けに子育て講演を行ったりしている。研修・講演は500回以上。講師として直接指導した教育関係者は1万5000人に及ぶ。全国の学校が休校していた2020年のコロナ禍に、これからの教育について考えるオンラインイベントを企画し、世界中の教育関係者を2000名以上集め、話題を呼ぶ。子ども教育のプロとして、NHK「おはよう日本」や朝日新聞、毎日新聞などのメディアなどにも取り上げられ、一躍有名になる。また、ラクロスの指導者としての顔も持ち、東京学芸大学女子ラクロス部監督、U-21女子日本代表監督、U-19女子日本代表監督を歴任。「教師」×「指導者」として、一貫して「自分で行動できる子ども・選手」の育成を実践している。著書に『自分で考えて学ぶ子に育つ声かけの正解』(ダイヤモンド社)など多数。

    子育て・教育Q&A