決められた宿題と何が違う?子どもの主体性を育てる自学自習の意義とテーマ選びのポイント

決められた宿題ではなく、子どもが自分で学ぶ内容を決める「自学自習」型の宿題が増えつつあります。
とはいえ「自由に決めていい」と言われても、何をやればいいのかわからず困ってしまうお子さまも多いのではないでしょうか。

「決められた宿題」から「自分で決める宿題」へ——。このような変化はなぜ起きているのでしょうか。ねらいや意義はどこにあるのでしょうか。そして、子どもの学びを深めるためのテーマ選びのポイントとは?

この記事のポイント

     

    20年近くの公立小学校教員経験を持つベネッセ教育総合研究所 教育イノベーションセンターの庄子寛之主席研究員に聞きました。

    自学自習型の宿題が広がっている背景

    「自学自習型の宿題」とは、先生から出された課題に取り組む従来型の宿題とは違い、何を学ぶか、どう学ぶかまで子ども自身が決めて取り組むものです。

    自分で決めたテーマへの取り組みをまとめる「自学ノート」に取り組む学校も増えてきています。小学校高学年から導入されることが多いですが、最近では3・4年生から始める学校も増えています。

    これまでの宿題といえば「漢字」「計算」「音読」の三本柱でした。なぜ今、そこに"自学自習"という新しい形が広がっているのでしょうか。

    背景には、まず、子どもたちの学び方や家庭環境の多様化があります。一律に同じ宿題を出しても、合う子もいれば、合わない子もいます。一人ひとりに合わせた個別最適化した学びの重要性も増す中で、宿題も一人ひとりに合ったものが求められるようになっています。

    また、社会で求められる力の変化も大きな影響を与えています。子どもたちが生きる未来の社会は、変化が激しく予測困難なものです。これまでの社会では経験したことのないような事態にも直面するでしょう。

    そんな社会を生き抜いていくためには、与えられた課題に対応するだけでは不十分です。自ら課題を見つけ、自ら考え、判断し、他者と協働して解決を目指す力が求められます。これは学習指導要領でいう「主体的対話的で深い学び」に当たります。

    このような背景をもとに、学校の宿題も少しずつ変化してきたわけです。
    教師主導の「やらされる宿題」から、子ども主導の「自分でつくる学び」へ。
    自学自習型の宿題は、まさにその変化を象徴する取り組みと言えるでしょう。

    自学自習で育つ力

    自学自習型の宿題に取り組むことで身に付くのは、知識だけではありません。自分で学びを進める中で、次のような力が育っていきます。

    ●    情報を集め、まとめる力
    ●    比較・検討する力
    ●    問いを立てる力

    こうした力は、探究的な学びにも生きます。自ら学ぶことができれば、変化の激しい時代の中でも、混乱せずにいられます。主体的に考え、自ら課題を解決していく確かな力が養われるでしょう。

    また、自分で好きなことや、興味のあることを学ぶ中で知的好奇心も育ちます。「知りたい」「やってみたい」という自分の気持ちを土台にした学びであれば、学びそのものが楽しくなるはずです。
    やらされる勉強ではなく、自ら選ぶ学びへ。学びの楽しさを知ることは、人生を楽しむことにもつながります。

    テーマは立派でなくていい。好きなことや、ときには時短でもOK!

    自学自習型の宿題で一番大切なのは、「自分で決めてやってみる」ことです。「立派なテーマじゃなくていい」ということを声を大にしてお伝えしたいです。

    保護者のかたは、自学ノートの模範例を見て「こんなに調べてすごい」と驚いたり、「うちの子にできるかな」と不安に感じることもあるかもしれません。でも、模範例はあくまで模範例。なかなかできないものだからこそ、模範例なわけです。「こうしなければ」「同じようなレベルのものを毎回出さなければ」と負担に感じる必要はまったくありません。

    毎回、模範例のような熱量で取り組むのは大変です。息切れもしてしまいます。ときには短い時間でできるもの、軽く取り組めるものでも一向に構いません。

    大事なのは、テーマの立派さよりも、「自分で決めてやりきる経験」です。
    学校で習った内容に関連していなくてもOK。アニメでも、スポーツでも、漫画でもどんなテーマでも構いません。自分が興味を持てることを、自分で選んでやりきることが、学びの土台を育てます。
    (小見出し)どんなことも学びになる!自学自習テーマ例
    たとえば、これまで見てきた中で印象に残っている自学自習のテーマには、こんなものがあります。

    ●    自作漫画を描く
    ●    教科書の物語の続きを書く
    ●    コロナについて調べてまとめる
    ●    いろいろな国について調べ、動画編集ソフトで世界旅行風に編集する

    一見、遊びや趣味のように見えるテーマでも、立派な自学自習になります。「考えて、やってみる」というプロセスこそが学びだからです。

    また、「漢字」「計算」「音読」といった従来型の宿題も、工夫次第で自学自習にできます。たとえば、こんな感じです。

    ●    魚へんの漢字を調べてまとめる
    ●    音読を動画に撮ってみる
    ●    計算のスピードを上げようとタイムトライアルに挑戦する

    どれも、与えられたものに取り組むのではなく、子どもが自分で決めて工夫している時点で、十分に価値があります。「いいことをやらせなきゃ」と保護者がテーマ選びに口を出してしまうと、それはもう「子どもの宿題」ではなく、「保護者の宿題」になってしまいます。「自学」にならないので気をつけたいですね。

    ネタ切れしても大丈夫。「続けること」に意味がある

    自学自習型の宿題に日々取り組んでいると、「もうネタがない......」という時期が必ずやってきます。でも、それは自然なことです。焦る必要はまったくありません。

    「なんかあるでしょ」とせかしたり、無理にテーマをひねり出させたりするよりも、
    「そういう時もあるよね」と受け止めてあげるくらいで大丈夫です。

    大人でも、「自分の好きなことは?」「今、何に興味ある?」と毎日聞かれ続けたら、戸惑ってしまいますよね。子どもだって同じです。

    そんな時は、「音読」「計算」「漢字」などの基本に戻ってOK。自分で自分の状態を振り返り、

    「最近計算ミスが増えてきたし、計算の練習をしておこう」
    「すらすら気持ちをこめて読みたいから、今日は音読をしよう」

    と取り組む目的を意識すれば大丈夫です。十分に「自分で学ぶ力」を育みますよ。テーマ選びに必死になる必要はありません。

    自分で決めて、やりきる。それを積み重ねていくことに意味があります。大人でも、自分で決めたことを毎日続けるのは簡単ではありません。だからこそ、子どもが続けようとしている姿は、ぜひほめてあげたいですね。

    まとめ & 実践 TIPS

    自学自習は、内容にこだわりすぎない。どんなに少しでも、子どもが自分で考え、自分で決めて取り組むことが大切、とのメッセージに、はっとしたかたも多いのではないでしょうか。自分で学びをつくる力を育てることが、これからの社会を生き抜く力につながります。「今日はどんなことに取り組むんだろう?」と楽しみに見守れるといいですね。

    プロフィール


    庄子寛之

    元公立小学校指導教諭。大学院にて臨床心理学について学び、道徳教育や人を動かす心理を専門とする。「先生の先生」として、ベネッセの最新データを使いながら教育委員会や学校向けに研修を行ったり、保護者や一般向けに子育て講演を行ったりしている。研修・講演は500回以上。講師として直接指導した教育関係者は1万5000人に及ぶ。全国の学校が休校していた2020年のコロナ禍に、これからの教育について考えるオンラインイベントを企画し、世界中の教育関係者を2000名以上集め、話題を呼ぶ。子ども教育のプロとして、NHK「おはよう日本」や朝日新聞、毎日新聞などのメディアなどにも取り上げられ、一躍有名になる。また、ラクロスの指導者としての顔も持ち、東京学芸大学女子ラクロス部監督、U-21女子日本代表監督、U-19女子日本代表監督を歴任。「教師」×「指導者」として、一貫して「自分で行動できる子ども・選手」の育成を実践している。著書に『自分で考えて学ぶ子に育つ声かけの正解』(ダイヤモンド社)など多数。

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