豊島での「思い出」や「記憶」を作品に。子どもたちの針貼工場ワークショップ体験【直島アート便り】

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豊島にある「針工場」は、アーティスト・大竹伸朗氏が手掛けた作品です。敷地内には中庭もあり、島外からお越しになるかただけでなく、子どもたちの遊び場、近隣にお住まいの方々の憩いの場としても地域に開かれています。7月には豊島にある保育所の園児を対象に、自分だけの作品を制作するワークショップが開催されました。豊島の園児たちは、「針工場」で何を感じ、どのような作品を作ったのでしょうか。今回は、針工場で行われたワークショップ「針貼工場(はりはるこうば)」の様子をご紹介します。

この記事のポイント

「針工場」ってどんなところ?

「針工場」は豊島の家浦港から歩いて10分ほどの家浦地区にあります。会場となっている場所はもともと、メリヤス針の製造工場跡でした。工場は昭和39年より25年ほど稼働した後に閉業し、その後使われることなく旧針工場として豊島に残されていました。

アーティスト・大竹伸朗氏は、この場所と、打ち捨てられる寸前だった船型を組み合わせることで、大きなコラージュ作品を手掛けました。

大竹伸朗「針工場」 写真:宮脇慎太郎

船型は、愛媛県・宇和島の造船所に残されていたものです。35年ほど前に鯛網漁船をつくるために製作された木製の船型は、一度も使われることなく造船所に置かれたままになっていました。
全長17mを超す船型は切断することなく、一隻丸ごと台船に乗せて、宇和島から豊島まで運ばれました。豊島・家浦港に到着した後、豊島住民の方々の手を借りながら船型は旧針工場と出合い、それぞれがひとつの作品として新たな役割を与えられることとなりました。

針工場では、長らく放置されていた別々の記憶を持つ二つの存在が、大竹氏の手によって重ね合わせられることで、新たな磁場が生まれています。

コラージュという手法

針工場では、大竹氏が得意とする表現のひとつである「コラージュ」の手法が用いられています。
エントランスや壁面など細部までよく観察してみると様々な素材が組み合わせられていることに気が付くでしょう。

大竹伸朗「針工場」 写真:宮脇慎太郎

大竹伸朗「針工場」 写真:宮脇慎太郎

コラージュされているものは大竹氏がこれまで出合ったものや豊島の鉄工所、宇和島の造船所にあったものなど様々です。
鉄や木、ゴムといった異なる素材同士が単に組み合わせられているだけでなく、それらがかつて使われていた場所の記憶や時間といった背景も同時にコラージュされていると考えられるのではないでしょうか。

豊島の子どもたちとコラージュする—「針貼工場」

2022年7月には、豊島の瞳保育所の園児を招き、針工場にてワークショップを開催しました。
ワークショップでは、大竹氏と同じように「コラージュ」を手法とした自分だけの作品をつくりました。
園児たちはまず針工場がどんな場所なのか、針工場のスタッフよりお話を聞きます。

その後、チラシや段ボール、木片、写真、カラーセロファンなど様々な素材の中から自分の好きな素材を選び、台紙に貼り付けていきます。

個性豊かな作品に仕上げていく園児たち

好きな色の紙を大きく貼り付けたり、立体的な木片や石をなんとかして台紙に貼り付けようと挑戦したりする子、台紙の両面に異なる素材を貼り合わせて作品を作ったり、糊の感触が楽しくてセロファンや段ボールに手で大きく塗ってみたりする子など、それぞれ作る過程も楽しんでいる様子が見られました。

自分の気になる素材を見つけて、好きなように組み合わせる、その過程を経て完成した作品は「針工場」で過ごした時間や思い出も内包しているといえるでしょう。

「記憶」「思い出」を持ち帰る

針工場では、大竹氏が用いた手法を使って、豊島での「思い出」や「記憶」をテーマにコラージュ作品を作るワークショップ「針貼工場」を開催しています(2022年8月時点)。豊島の園児のように、自分の好きなものを思うままに組み合わせてみたり、豊島で見たことや感じたことを自分なりに表現してみたり、小さなお子さまから大人の方まで楽しめる内容になっています。異なる背景を持つもの同士を組み合わせることで生まれた針工場で、旅の記憶や思い出をコラージュしながら、自分だけの旅の記録を残してみてはいかがでしょうか。

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「ベネッセアートサイト直島」は、直島、豊島、犬島などを舞台に、株式会社ベネッセホールディングスと公益財団法人 福武財団が展開しているアート活動の総称です。訪れてくださる方が、各島でのアート作品との出合い、日本の原風景ともいえる瀬戸内の風景や地域の人々との触れ合いを通して、ベネッセグループの企業理念である「ベネッセ=よく生きる」とは何かについて考えてくださることを願っています。
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