小豆島・福田地区で多様な価値観に触れよう!福武ハウスの取り組みとは?【直島アート便り】
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2013年、小豆島の福田という一つの集落をハブに、アジア諸地域がつながるプロジェクトとして福武ハウスは始まりました。アートや食、地域資源を活かした体験を通して、人と土地、人と人をつなぐ活動を展開しています。直島アート便りでは、福武ハウスの活動を2回に分けてご紹介します。
写真:牧浦知子(しまもよう)
福武ハウスってどんなところ?
小豆島の北東に位置する福田地区は、瀬戸内海に面しながら三方を山に囲まれ、集落では農林業や漁業、石材業が営まれ人と文化の交流点として発展してきました。
小豆島・福田地区 2018年撮影 写真:三浦尚志
しかしながら、産業の近代化を境に高齢化と過疎化が進み、子どもたちが地域の文化に触れる機会も少なくなっています。瀬戸内国際芸術祭2013をきっかけに始まった福武ハウスは、廃校となった旧福田小学校を再生し、地域の新たな文化交流の拠点として活動を続けています。
福武ハウス 写真:宮脇慎太郎
2013年から現在に至るまでの間に、作品を公開する「アジア・ギャラリー」、アジア各地域の料理を福田の地域住民がふるまう「福田アジア食堂」、福田地区とアジアのパートナーがさまざまな活動を通してお互いの理解を深める「アジア・アート・プラットフォーム」、福田地区の地域文化を収集・保存し、地域の価値を新たに創り出す「福武ハウス風土ラボラトリー」など、人と地域をつなぐ活動を展開しています。
アートを介してアジアの文化に触れる「アジア・ギャラリー」
旧福田小学校の校舎の2階をギャラリー空間に改装した「アジア・ギャラリー」には、日本を含むアジアのさまざまな現代アート作品が公開されています。
福武ハウス パナパン・ヨドマニー「Aftermath」2016 写真:宮脇慎太郎
福武ハウス アジア・ギャラリー 写真:山本糾
作品を通じて、時代によって変化する社会や地域固有の伝統・文化に触れることができ、自分自身や現代社会について考える機会になるかもしれません。
アジアの文化と多様な人々が交差する「アジア・アート・プラットフォーム」
「アジア・アート・プラットフォーム」では、インドネシア、タイ、台湾、香港、カンボジアなど、アジアの各地域で活動する美術関係団体をパートナーとして、アーティストを招聘し、福田地区で共に生活しながら作品を制作することで、それぞれの歴史や文化の理解を深める活動を行っています。
2019年に行われたイベントの様子
2019年には、パフォーマンスイベント「デジャヴ—生きている遺産」が行われました。その中で、インドネシアから参加したパフォーマーは、1週間にわたって福田地区の親子とワークショップを実施し、作品を発表しました。
福田地区の親子が参加したパフォーマンス本番の様子
参加者は、普段触れることのできないアジアの地域の伝統や文化に触れ、新たな価値観と出会う機会になりました。
地域固有の文化を発見する「福武ハウス風土ラボラトリー」
「福武ハウス風土ラボラトリー(通称:ふふラボ)」では、地域の人々の生き方に焦点を当て、「食」や「物語」、「祭り」などさまざまなテーマにおける、地域固有の文化を収集・保存、体験することで、地域の新たな魅力を伝えるプログラムを実施しています。2020年は「食」と「影絵」をテーマにした取り組みを行いました。
「食」のプロジェクトでは、料理研究家を招聘し、「コミュニティの形を食で表現する」をテーマに、福田のご当地弁当を作りました。福田地区以外の集落の食文化も調査をし、野菜や魚を中心としたお弁当が作られ、福田に暮らす方々に向けた試食会が行われました。
料理研究家は漁に同行し、福田の食文化をリサーチ
また、「影絵」のプロジェクトでは、音楽家で影絵師の川村亘平斎(こうへいさい)氏と福田の親子とが一緒に地域の人の記憶に残る物語をリサーチして影絵の上演をしました。影絵は日本だけでなく、インドネシアなどアジアの多くの地域で親しまれ、神話やおとぎ話など、地域性が色濃く反映されている表現でもあります。
影絵師の川村氏は福田地区をめぐり、地域住民の記憶に残る物語をリサーチ
影絵の制作のため、福田地区の親子が70代~90代のお年寄りのかたへインタビューを行いました。かつて集落にはノミをたたく「石工の音」が響いていたり、今は森になってしまった耕作放棄地には「ヤマモモ」があったり、砂浜があった場所にはイワシを窯でゆでて干した「いりこ」が並んでいたりなど、教科書にも郷土史にも残らない、福田地区に生きる住民の鮮やかな記憶が発見されました。こうして集められた集落の記憶は、川村氏により3つのエピソードに編集され、影絵芝居『福田うみやまこばなし』が完成しました。
インタビューを通して福田の物語を知る
2020年9月に予定していた影絵上演は、新型コロナウイルスの感染拡大の影響により映像収録のみとなりましたが、ライブイベントとして改めて実施するために、クラウドファンディングのプロジェクトが立ち上がりました。プロジェクトページには、福田住民だけでなく、今はもう島を出て暮らしている人やプロジェクトに賛同する人から多くの応援メッセージが寄せられ、2021年4月、『福田うみやまこばなし』は無事に上演されました。福田の物語を介して新たなつながりが生まれたと言えるのではないでしょうか。
2021年4月の影絵上演の様子 写真:牧浦知子(しまもよう)
瀬戸内国際芸術祭2022に向けた新しい展開
瀬戸内国際芸術祭は、3年に1度、瀬戸内海の12の島と2つの港を舞台に開催される現代アートの祭典です。2022年は4月14日より春・夏・秋と3会期に分けて開催を予定しており、小豆島の福武ハウスもその会場に含まれています。
春会期では「アジア・ギャラリー」にて新しい作品が公開され、夏会期以降は集落の中でも作品が展開していく予定です。また、今年は新たにカフェがオープンし、地域住民へのインタビューやリサーチをもとに考案したお弁当が提供されます。さらに、2020年より行っている影絵に関するイベントのほか、季節の料理教室や島の自然のなかにある暮らし方を探究するワークショップ「365教室」も実施される予定です。
次回の【直島アート便り】では、福武ハウスでの新しい活動である、暮らしの種を蒔く「365教室」について詳しく紹介します。
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