児童虐待が過去最多を記録 早期発見を担う学校で起きている課題とは

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子どもたちへの虐待が深刻な状況となっています。
長引く新型コロナウイルス感染症の影響で、虐待のリスクがさらに高まることが懸念されています。
社会全体で子どもたちを守り、育てていく態勢づくりが求められる中、学校はどのような役割を担うことができるのでしょうか。

この記事のポイント

児童虐待が過去最多を記録

厚生労働省の調べでは、2020年度の児童相談所での児童虐待相談対応件数は20万5,029件と、昨年度より約1万件増加し、過去最多を更新しました。
増加の要因として、言葉による脅しや無視、子どもの心を傷つける言葉を繰り返すなどの「心理的虐待」の相談件数が増えたことや、警察等からの通告が増加したことがあるとしています。

防止推進月間を前にメッセージ

過去最多という結果を受けて、末松信介文部科学大臣は11月の児童虐待防止推進月間を前に、全国の子どもと大人に向けて、メッセージを発信しました。

一つは虐待などに悩む子どもに向けたもので、学校の先生やスクールカウンセラー(SC)など、周りの大人に相談するよう促したり、全国無料で掛けられる児童相談所虐待対応ダイヤル「189」を紹介したりしています。

もう一つは保護者、地域、学校関係者など大人に向けたものです。
子育てに不安や悩みがある保護者には自治体の相談窓口を頼ったりすることや、児童虐待と疑われるサインに気づいた学校関係者には、児童相談所への相談や通告、関係機関との連携した対応を求めています。

早期発見のセーフティーネット

学校が児童虐待防止に果たす役割は小さくありません。
児童相談所への相談経路としては、警察等、近隣・知人、家族・親戚に次いで、学校からの件数が多くなっているからです。

児童虐待防止法では、学校は虐待の早期発見に努め、発見した場合には通告の義務を課すとともに、児童福祉関連の関係機関との連携強化も求めています。
国も、学校がそうした動きを取りやすくするよう、専門家であるSCやスクールソーシャルワーカー(SSW)の活用を図っていますが、まだ認知度が低かったり、その役割が相互に理解されなかったりして、十分な活用が進んでいないのが課題です。

生徒指導に関する文科省の会議では、SSWが不足していることや、コロナ禍で子どもたちのメンタルヘルスが悪化する恐れがあること、家庭の状況が複雑化して虐待等のリスクが高まることも指摘されています。

まとめ & 実践 TIPS

コロナ禍では、子どもの外出機会が制限されてきました。虐待が見えにくくなっている今、学校は、子どもたちの様子を捉えやすい場所でもあります。
担任の先生の観察力に頼るだけではなく、SCやSSWといった専門家の充実や活用の強化を、組織的に図ることが求められています。

(筆者:長尾 康子)

文部科学省 「児童虐待の根絶に向けて ~地域全体で子供たちを見守り育てるために~」
https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/seitoshidou/1422396_00006.html

厚生労働省 児童虐待相談対応件数の動向
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kodomo/kodomo_kosodate/dv/index.html

プロフィール


長尾康子

東京生まれ。1995年中央大学文学研究科修了。大手学習塾で保育雑誌の編集者、教育専門紙「日本教育新聞」記者を経て、2001年よりフリー。教育系サイト、教師用雑誌を中心にした記事執筆、書籍編集を手がける。

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