アートで学ぶ?!自分だけの見方を見つけるアート鑑賞とは【直島アート便り】
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芸術の秋。美術館へ足を運び、アートに触れたいという方も多いのではないでしょうか。
興味のある企画展に足を運んでみたり、あるいは鑑賞ツアーに参加してみたり、アートの楽しみ方はたくさんあります。
今回は、ベネッセアートサイト直島で実践している、「対話」を通して作品を鑑賞するプログラムをご紹介します。
「対話型鑑賞」とは?
「対話型鑑賞」とは、対話をしながら作品を観る鑑賞法です。
1980年代後半にニューヨーク近代美術館(MoMA)が研究・開発し提唱した鑑賞プログラムで、1990年代後半には日本でも注目を浴びるようになりました。
対話型鑑賞は、ガイドから一方的に作品の解説をするような鑑賞ではなく、グループで作品を鑑賞し、お互いの自由な感想や意見をもとに、作品の解釈や見方を深めていくのが特徴です。
1つの作品をじっくりと時間をかけて観察し、気づいたことを共有し合い、どこからそう思ったのかを考え、再度作品を鑑賞する。このサイクルを繰り返すことで、自分なりの見方を見つけたり、鑑賞者によってそれぞれ異なる意見を持っていることが実感できます。
また、感想や気づきを語り合いながら進行する鑑賞体験は、ものごとを見る「観察力」、自由に発想する「創造力」、根拠に基づき体系的に考える「批判的思考力」、自分の意見を話す力、他の人の考えを聞く力といった「コミュニケーション力」を育む教育メソッドとしても着目されています。
対話型鑑賞で作品をめぐるツアー
ベネッセアートサイト直島では、対話型鑑賞を用いた独自のプログラムを展開しています。
そのうちの1つに、直島の李禹煥美術館にて、毎週土曜日と日曜日に開催されている対話型の「トークツアー」があります。
このプログラムは、スタッフの問いかけをもとに作品鑑賞を通じて気づいたこと、疑問などに目を向け、スタッフと参加者が一緒に対話を重ねながら鑑賞体験を深めるものです。
参加者は作品のまわりを歩いてみたり、視点を変えたりしながら、感じたことや疑問に思ったことを自由に発言していきます。
李禹煥美術館 写真:山本糾
写真左手前の作品:≪関係項—対話≫、右奥の作品:≪関係項—点線面≫
例えば、≪関係項—対話≫を鑑賞した参加者からは、「石と鉄板がある」と素材に注目した意見や、「石と鉄板、それぞれどういう関係性を表しているのだろう?」と疑問が出てきました。
初めに抱いた感想を起点に、素材同士の関係性や、どこからそう思うのかをスタッフと一緒に話しながら考えていきます。すると次第に「鉄板がパーテーションに見える、今の時代を反映しているみたい」「石は自然のものであるのに対して、鉄板は人工物。人の手が加わっている鉄板は自立できず、石と鉄板がお互いに支えあうことでしか立てない」等それぞれの見方ができあがっていきました。
同じ作品を観ていても、その解釈の仕方は観る人によって様々です。
対話型のツアーでは、作品との対話、また参加者やスタッフとの対話を通じて、自分自身の見方に気づいたり、自分1人では思いつかないような新しい視点に出合う機会を提供しています。
ご自宅でも体験できる「アート思考」を育むオンライン講座
対話型鑑賞は教育メソッドの1つとして美術鑑賞の枠組みにとどまらず幅広く活用されています。
特に、変化が大きく先が見えない「VUCA(※1)の時代」と呼ばれる現代では、既存の考え方や常識にとらわれず自分で答えを作り出す力をもつことが求められています。あらゆるものを取り巻く環境が日々めまぐるしく変化する中、昨今注目されているのが「自分なりの視点」で物事を捉え、「自分だけの答え」をつくる「アート思考」です。
ベネッセアートサイト直島は、ベストセラー『13歳からのアート思考』で著名な末永幸歩氏を講師として迎え、「大人こそ受けたい『アート思考』の授業—瀬戸内海に浮かぶアートの島・直島で3つの力を磨く—」を今年の5月にオンライン学習プラットフォーム「Udemy(ユーデミー)」にて開講しました。
写真左:末永幸歩氏
本講座は、「主観を信じよう」「視点を変えよう」「疑問を抱こう」という3つの授業で構成されており、「自然・アート・建築」の関係性を重視する直島の作品を、様々に視点を変えながら鑑賞することで「アート思考」を体験できる内容になっています。
講座の中で、参加者は鑑賞を通じて得られた自分なりの気づきや疑問、違和感をアウトプットしたり、他の人の視点との出合いを体験したりしながら、「自分だけの答え」を見つけていきます。
実際に受講された方からは「自分自身、自由なものの見方を忘れてしまっていることに気づかされた」 、「オンラインだがリアルなプログラムを実感できた」、「他の人の思ったことを、正しい、正しくない、また賛同できるできないという基準で捉えないということができるのも、アートの強みだと思いました」など様々な感想が寄せられています。
「アート思考」にあまり馴染みのない方も、難しく捉える必要はありません。目で観る以外の方法で鑑賞を促す仕掛けや、段階的に思考を広げるワークがたくさん用意されていますので、ご自宅でも実践を通してアートとの向き合い方を楽しく学べる機会にもなるはずです。
解釈に正解はない!自分の見方で作品と向き合う
ベネッセアートサイト直島では現代アートの作品を中心に公開しています。
現代アートは解釈に正解がなく、観る人が自由に自分の答えをつくることができる点が特徴の1つとして挙げられます。
一見すると難解そうに感じる作品であっても、正しい見方がないからこそ、その解釈の幅は無限に広がっています。「これはなんだろう?」「ここが気になるな…」と素直に思ったこと、感じたことを出発点にして、1人でゆっくり作品との対話を楽しんだり、あるいは他の人と対話をしながら作品を鑑賞してみたりすることで、自分でも驚くような新しい発見や自分だけの見方に出合えるかもしれません。
ベネッセハウスではホテルでの滞在を楽しみながら、ベネッセハウス ミュージアムでの対話型のツアーにも参加できる宿泊プランをご用意しています。(2021年10月現在)
実際に参加された方からは、「通常の美術館での鑑賞ではできない体験で面白かった」、「第三者を介して自身の考えや意見を述べることについて、新しい気づきを発見できた」といった感想をいただいています。
ぜひこの機会にゆっくりとアートと対話してみてはいかがでしょうか。
※1 Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の頭文字から成る造語。社会や個人などを取り巻く環境が複雑に変化し、将来の予測が難しくなっている昨今の状況を表す言葉として、ビジネス界を中心に使われています。
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