SDGsを高校生が体験を通してどう学んだ? 銅の製錬所跡と石切り場跡の犬島【直島アート便り】

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岡山市唯一の有人島でもある犬島は、かつて銅の製錬や採石業で賑わった島です。現在は、製錬所跡地を活用した美術館や、集落の風景と共に体感する作品、これからの暮らしの在り方を考える場でもある植物園をアートプロジェクトとして展開しています。今回は、2020年12月に岡山県備前県民局主催で行われた、犬島でSDGsを考える高校生向けプログラムをご紹介します。

この記事のポイント

犬島ってどんな島?

犬島は周囲約4kmの、歩いて一周できる小さな島です。人口は約40人、高齢化率は50%を超えます(2020年12月現在)。古くから良質な花崗岩の産地であり、「犬島みかげ」と呼ばれる石は大阪城の改修などにも使われました。1909年には銅の製錬所が本土より移転されましたが10年間で稼働を終え、その製錬所跡は2007年度経済産業省による地域活性化のための「近代化産業遺産群33」」に認定されています。

犬島精錬所美術館 写真:阿野太一

体験を通じて考えるプログラム

このプログラムは、学生が犬島での体験を通じて、SDGsのテーマを身近なものととらえ、どのように考え行動すべきか、自分なりの答えを見つけることを目指しています。
犬島を訪問する前に、事前学習として犬島の基本情報やSDGsとは何かを学び、犬島で考えたいことをイメージします。その後、犬島を訪れ、3つのアートプロジェクトをスタッフと一緒にめぐりながら、それぞれの場所で設定されたテーマについて考えていきました。

島民の方から昔の犬島での暮らしについて話を聞く生徒

犬島「家プロジェクト」を鑑賞する生徒。このアートプロジェクトでは、「桃源郷」をテーマに、作品を通じて島の風景をみる体験ができます。

犬島「家プロジェクト」A邸 ベアトリス・ミリャーゼス「Yellow Flower Dream」2018 写真:井上嘉和

既にあるものを活用した犬島精錬所美術館

犬島精錬所美術館は、建築家・三分一博志の設計により、製錬所跡に残されていた煙突や鍰(からみ)煉瓦を活用し、自然エネルギーで館内の温度を調整できる仕組みになっています。鍰煉瓦は主成分が鉄であるため、その蓄熱性を活かし、夏は地熱と鉄を利用して冷放射効果を起こすことで空気を冷やし、冬は太陽の熱を鍰煉瓦に蓄えることで空気を温めています。そうして快適な温度に調整された空気は、煙突の空気を吸い上げる効果によって動き運ばれていきます。生徒たちは実際に鍰煉瓦を触ってその特徴を理解し、美術館内では風の動きに注目して自然による空調を体感していました。

犬島精錬所美術館の周辺には近代化産業遺産を散策できるエリアもあり、100年前のまま残されている発電所跡などを見ながら、犬島のアートプロジェクトのメッセージでもある「在るものを活かし、無いものを創る」ことの効果や手法について自分なりに考えていました。

犬島精錬所美術館 柳幸典「ヒーロー乾電池/イカロス・タワー」(2008) 写真:阿野太一

これからの生き方を考える、犬島 くらしの植物園

犬島 くらしの植物園では、運営を行っている「明るい部屋」の橋詰氏に、プロジェクトの目的や活動内容を聞きました。「植物園」と聞くと美しい草花を眺める場所というイメージがありますが、「ここはコミュニティデザインとしての植物園であり、島の暮らしや景観について訪問者と一緒に考える活動を目指しています。ここに来たら庭を眺めるだけでなく、庭の中に入って参加してほしい」と橋詰氏は話します。集う庭、食べる庭、リビングルームとしての温室など、機能別にいくつかのエリアに分かれており、いずれも柵や仕切りはなく、自由に入りハーブや花を摘むこともできます。

ハーブティーづくりのワークショップなども時季に合わせて行っており、様々な体験を通じて、本当に豊かな暮らしとは何か、自然とどのように人間は向き合っていくべきかを考える場所になっています。生徒たちは橋詰氏から犬島の成り立ちや産業などについてレクチャーをうけた後、植物園を歩き回りながら、場の機能について考えたり、日々の作業について橋詰氏にインタビューしたりしていました。

自分なりの答えを見つけるベネッセアートサイト直島

ベネッセアートサイト直島は、私たちが直面している課題やミッションに対する明確な答えを発信している場所ではありませんが、アートプロジェクトでの体験を通じて、現代社会の在り方を見直すきっかけやヒントを得ることができる場所です。SDGsにも繋がる環境問題、少子高齢化、近代化の影響、持続可能な未来の暮らしなど、自分の身近にある現代社会の課題について体験を通じて学び、作品を介して新しい視点を得、自分なりの答えを考えてみてはいかがでしょうか。

プロフィール



「ベネッセアートサイト直島」は、直島、豊島、犬島などを舞台に、株式会社ベネッセホールディングスと公益財団法人 福武財団が展開しているアート活動の総称です。訪れてくださる方が、各島でのアート作品との出合い、日本の原風景ともいえる瀬戸内の風景や地域の人々との触れ合いを通して、ベネッセグループの企業理念である「ベネッセ=よく生きる」とは何かについて考えてくださることを願っています。
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